Last Updated on 2026年8月17日 by oba3
スイス金融大手UBSが、ブラックロック(BlackRock)の現物ビットコイン(Bitcoin)ETF「iシェアーズ・ビットコイン・トラスト」のコールオプションについて、対象株数を2026年3月末の8万株から6月末の195万株へ拡大したことが米国の規制開示で明らかになった。増加率は約2338%で、3カ月間で24倍を超える。一方、通常のIBIT現物持分は約12%増にとどまり、プットの対象株数は約53%減少した。重要なのは、UBSがビットコインに強気になったと単純に読むことではない。銀行がビットコインへのエクスポージャーを、ETFの現物持分だけでなくオプションまで使って組み立てるようになり、暗号資産リスクが証券市場のデリバティブ体系へ取り込まれている点にある。
何が起きたのか?
UBSグループ(UBS Group)が2026年8月13日に提出したForm 13Fによると、6月30日時点でブラックロックのiシェアーズ・ビットコイン・トラスト、通称IBITについて、コールオプションの対象となる株数が195万株だった。3月末時点では8万株だったため、対象株数は187万株増え、約24.4倍となった。
一方、オプションではない通常のIBIT持分は40万7890株だった。3月末の36万4371株から4万3519株増え、増加率は約11.9%となる。コールの対象株数が急増したのに対し、ETFそのものの保有増加は比較的小さかった。
反対方向の価格変動へ対応するプットオプションでは、対象株数が3月末の30万3300株から6月末には14万3300株へ減少した。減少率は約52.8%となる。
ただし、この13FだけからUBSが自社資金でビットコイン上昇を見込んだと断定することはできない。開示資料には個々のオプションの権利行使価格や満期、最終的な受益者、保有目的が記載されていないためだ。顧客取引への対応、マーケットメーキング、ヘッジ、その他の運用戦略が含まれている可能性があり、195万株相当をUBS自身による単純な強気ポジションとして扱うのは適切ではない。
なぜ重要なのか?
2024年に米国で現物ビットコインETFが登場したことで、銀行や資産運用会社はビットコインを直接保管しなくても、通常の証券市場を通じて価格リスクを扱いやすくなった。その次に広がっているのが、ETFを原資産とするオプション市場だ。
現物ETFだけなら、基本的な投資判断はIBITを買うか売るかになる。しかしオプションが加わると、一定価格以上への上昇に備える、価格下落を限定する、顧客へ商品を提供した際のリスクを相殺するなど、より細かなポジション設計が可能になる。
つまりビットコインが銀行の金融システムへ入る際、必ずしも銀行自身がBTCをウォレットに保有する必要はない。ETF、コール、プットなど証券市場にすでに存在する道具を組み合わせることで、ビットコイン価格へのリスクを管理できる。
UBSの今回の開示は、その選択肢の中でオプションの利用規模が大きく変化した事例として注目できる。ただし13Fは四半期末のスナップショットであり、期間中の売買や現在のポジションを示しているわけではない点にも注意が必要だ。
市場構造への影響
現物ビットコインETFの登場によって変わったのは、投資家がビットコインへアクセスする入口だけではない。ETFを基礎に先物やオプションなどの金融商品が重なることで、ビットコイン価格を扱う市場が複数層に広がっている。
最下層にはビットコインの現物市場があり、その価格を参照してIBITなどのETFが取引される。さらにETFを対象とするオプション市場が存在し、銀行やヘッジファンド、マーケットメーカーはそこで異なる期間や価格水準のリスクを売買できる。
この構造では、ビットコインへの機関参加をETFへの純流入額だけで判断するのは難しくなる。ETFを直接保有する機関もあれば、コールを使う参加者、プットで保険を組む参加者、複数の商品間で価格差を取引する事業者も存在するからだ。
UBSのケースでも、通常のIBIT持分が約12%増えた一方、コールの対象株数は24倍超へ増えた。少なくとも開示上は、現物持分よりオプション側で大きな変化が起きており、銀行のビットコイン関連ポジションを理解するにはデリバティブまで見る必要がある。
資金・規制・流動性との関係
ETFオプションが機関投資家にとって重要なのは、ビットコイン価格へのアクセスだけでなく既存の証券市場インフラを利用できることだ。ポジション管理、証拠金、カストディー、リスク計測などを、暗号資産取引所とは別の規制された市場体系で処理できる。
銀行が顧客向けにビットコイン関連商品や取引サービスを提供する場合でも、すべての価格リスクをそのまま自社で抱える必要はない。IBITの現物、コール、プットなどを組み合わせれば、顧客取引から生じたリスクを市場へ移転できる。このためETFオプションの流動性は、最終投資家だけでなく金融仲介業者にとっても重要になる。
一方、13F上のオプション対象株数は、同額のIBITを現物保有していることを意味しない。コールを購入した場合に行使できる原資産の株数を示すものであり、実際の経済的リスクは権利行使価格、満期、オプション価格などによって変わる。
今回の195万株という数字も、それをそのまま現物ETF195万株の買い需要やビットコイン購入額へ置き換えることはできない。重要なのは金額換算より、大手銀行の開示にビットコインETFを原資産とするオプションが大きな規模で現れているという市場の階層化だ。
初心者向け補足
コールオプションとは、ある資産を将来、あらかじめ決められた価格で買う権利を取引する金融商品だ。対象資産の価格上昇に備える目的で使われることが多いが、ヘッジや複雑な取引戦略にも利用されるため、コール保有だけから投資家の最終的な相場観を判断することはできない。
プットオプションは逆に、決められた価格で売る権利を持つ。価格下落への保険として使うことができるが、こちらも他のポジションと組み合わせて利用される場合がある。
またForm 13Fは、一定規模以上の米国証券を運用する機関投資家が四半期ごとの保有状況を報告する制度だ。四半期末時点のポジションを確認できる一方、その取引が誰のために行われたのか、なぜ保有しているのかまでは通常分からない。そのためUBSのコール増加を、そのまま銀行自身によるビットコイン価格上昇予想と読むべきではない。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、UBSのIBITコールが24倍になったという数字の大きさではない。現物ビットコインETFの登場から約2年半が経ち、ビットコインを扱う金融機能がETFの保有からデリバティブによるリスク管理へ広がっていることだ。
機関投資家による暗号資産参加を考えるとき、保有BTCやETF純流入だけを追うと一部しか見えない。銀行はETFを直接持つだけでなく、顧客注文を仲介し、コールやプットを利用し、他市場との価格差を管理することができる。ビットコインへのエクスポージャーは一つの保有残高ではなく、複数の金融商品へ分解される。
この変化が重要なのは、ビットコイン市場が伝統金融へ接続されるほど、銀行が暗号資産専用の取引手法を採用する必要がなくなるためだ。株式や商品で使ってきたオプション、証拠金、ヘッジという既存の道具を、そのままビットコインETFの周囲へ配置できる。
今後見るべきなのはUBSが次の四半期に何株相当のコールを持つかだけではない。IBITオプションの流動性がどこまで増えるのか、銀行やマーケットメーカーがどのようなリスク移転に利用するのか、そしてETF、オプション、先物の間で機関資金がどう動くのかが重要になる。ビットコインの機関化は、現物を誰が持つかという段階から、その価格リスクを既存金融市場でどれだけ細かく分解し、移転できるかという段階へ広がっている。
