Last Updated on 2026年7月24日 by oba3
米ドル連動型ステーブルコインのUSDCを発行するサークル・インターネット・グループ(Circle Internet Group)が、韓国のカカオグループ(Kakao Group)、トス(Toss)、トスバンク(Toss Bank)とそれぞれ協力し、ブロックチェーンを使った決済・精算基盤やステーブルコイン関連サービスを検討する。現段階はいずれも戦略的業務協約に基づく検討であり、具体的なサービス開始、発行主体、利用店舗、取扱通貨は確定していない。注目すべきなのは提携企業の知名度ではなく、カカオやトスが持つ消費者向けアプリと、トスバンクなどの銀行口座、加盟店精算、海外送金をどこまで一つの導線へ接続できるかである。
何が起きたのか?
カカオグループはサークルと戦略的業務協約を結び、ウォン建てステーブルコインを含むデジタル資産サービス、ブロックチェーン決済、精算基盤に関する協力機会を検討すると発表した。カカオグループには、メッセンジャーのカカオトーク(KakaoTalk)、決済サービスのカカオペイ(Kakao Pay)、インターネット銀行のカカオバンク(KakaoBank)などがある。
同じ時期に、トスとトスバンクもサークルとの戦略的業務協約を公表した。3社はステーブルコインとブロックチェーン技術を利用した決済・精算基盤を共同で検討し、サークルの技術とトス、トスバンクのサービスを接続する方法を探る。
検討対象には、デジタルウォレット、生体認証を使った支払い、USDCを利用する金融サービス、条件に応じて自動処理できるプログラマブル決済、海外送金や国際精算などが含まれる。トスバンクは銀行口座を基盤とした精算機能を使い、ステーブルコインと既存の法定通貨決済網を結ぶ可能性を調べる。
ただし、今回発表されたのは提携の方向性であり、韓国でUSDC決済やウォン建てステーブルコインがすでに導入されたわけではない。どの企業が発行者となるのか、銀行預金や準備資産を誰が管理するのか、カカオペイやトスの利用者が直接保有できるのか、加盟店が受け取った資産をどのようにウォンへ換金するのかは未公表である。
なぜ重要なのか?
ステーブルコインが日常決済へ広がるには、ブロックチェーン上で送金できるだけでは足りない。利用者が普段使うアプリ、銀行口座からの入出金、加盟店の支払い受付、売上代金の精算、返金や不正利用への対応までを一続きにする必要がある。
カカオとトスは、メッセンジャー、送金、決済、証券、銀行など複数の機能を消費者向けアプリへ集約してきた。サークルの決済技術がこれらの既存サービスへ組み込まれれば、利用者が新しい暗号資産交換所へ口座を開かなくても、ステーブルコインを使った送金や決済へ接触する入口が作られる可能性がある。
一方、業務協約だけでは利用範囲を判断できない。実証実験にとどまるのか、海外送金など特定用途へ限定されるのか、一般店舗での支払いまで広げるのかによって、既存決済網へ与える影響は大きく異なる。提携先の数より、実際に接続される口座、加盟店、通貨、利用者層を見る必要がある。
市場構造への影響
韓国の大規模な消費者向けアプリと銀行口座がステーブルコイン基盤へつながれば、暗号資産交換所を中心としてきた利用経路が変わる可能性がある。従来は、利用者が交換所へウォンを入金し、暗号資産を購入して外部ウォレットへ送る流れが一般的だった。アプリ内の残高や銀行口座からステーブルコイン決済へ接続できれば、交換所を経由しない利用経路が加わる。
特に重要なのは、支払いの表側と精算の裏側を分けて考えることである。利用者にはウォン建ての支払いとして表示しながら、企業間や国境を越えた精算だけをUSDCなどで処理する設計も考えられる。この場合、一般利用者がステーブルコインを直接保有しなくても、ブロックチェーンが決済基盤の一部として利用される。
反対に、利用者がウォレット内でUSDCや将来のウォン建て資産を保有し、加盟店へ直接送る形であれば、銀行預金、電子マネー、カード決済と並ぶ新しい支払い残高が生まれる。資金が銀行口座からステーブルコインへ移れば、預金、決済事業者の残高、オンチェーン資産の間で資金の置き場所が分かれることになる。
ただし、カカオとトスの利用者基盤が大きいことだけで利用が定着するとは限らない。店舗側の導入費用、手数料、即時のウォン精算、返金処理、会計記録、利用者保護が既存のカードや簡単決済より不便であれば、日常用途は限定される。普及を左右するのはブロックチェーンの処理性能より、既存決済より使いやすい入口と出口を用意できるかどうかである。
資金・規制・流動性との関係
決済基盤を設計するうえで最初に確認すべきなのは、USDCを使うのか、ウォン建てステーブルコインを使うのかという点である。USDCを利用する場合、韓国の利用者や加盟店はウォンと米ドル連動資産の交換経路を必要とする。為替変動、交換手数料、国境を越える資金移動の管理も加わる。
ウォン建てステーブルコインを導入する場合は、発行主体と償還義務が中心になる。銀行が発行するのか、決済会社などの非銀行企業が発行できるのか、準備資産をどこに保管するのか、利用者が額面どおりウォンへ戻せるのかを制度で定めなければならない。現時点では、今回の協力から具体的な発行者が決まったとは確認できない。
トスバンクの参加は、オンチェーン資産と銀行口座の間に入出金経路を設ける可能性を示す。銀行側で本人確認を終えた利用者がアプリからステーブルコインを購入し、受取人が銀行口座へ換金できれば、ウォレット間送金と法定通貨決済を一つのサービスとして提供しやすくなる。
その一方で、マネーロンダリング対策、顧客確認、取引監視、資産凍結、個人情報管理を、銀行とブロックチェーンの双方で整合させる必要がある。オンチェーン送金は24時間動いても、銀行側の換金や加盟店精算が限られた時間しか処理されなければ、実際の資金利用には時間差が残る。
加盟店へのウォン精算を誰が担うかも重要である。加盟店がステーブルコインを保有せず、決済直後にウォンを受け取る設計なら、決済事業者や銀行が交換リスクと必要な流動性を引き受ける。利用店舗が増えるほど、ウォンとステーブルコインを安定して交換する資金基盤が必要になる。
初心者向け補足
ステーブルコイン決済では、利用者が送ったトークンを店舗がそのまま保有する方法と、決済会社がすぐに法定通貨へ交換して店舗へ入金する方法がある。後者では、利用者にはブロックチェーン決済でも、店舗側には通常のウォン売上として見える場合がある。
また、決済と精算は同じではない。決済は利用者が店舗へ代金を支払う処理であり、精算は決済事業者や銀行が店舗へ売上金を渡す処理である。支払い画面が速くても、加盟店への入金やウォンへの交換に時間がかかれば、事業者にとっての利便性は高まらない。
今回の発表はサービス開始ではなく、何を共同で構築できるかを調べる段階である。利用者が確認すべきなのは、どのアプリで使えるかだけでなく、発行者、換金先、手数料、返金方法、資産保護の条件である。
Web3Timesの視点
サークルと韓国企業の協力を、カカオやトスがステーブルコイン事業へ参入したという一文だけで捉えるのは早い。現時点では発行、決済、精算、海外送金のどこまで実装するかが決まっておらず、業務協約から実際の商用基盤までには複数の工程が残る。
見るべきなのは、カカオトークやトスの利用者数そのものではなく、その利用者が持つ銀行口座と加盟店網がどこまでオンチェーン資産へ接続されるかである。アプリ内で残高を表示するだけなのか、銀行口座から即時に交換できるのか、店舗がウォンで受け取れるのかによって、決済基盤としての価値は変わる。
また、カカオとトスが同じサークルの技術を利用しても、共通の決済網になるとは限らない。ウォレット、本人確認、加盟店契約、精算口座が企業ごとに分かれれば、それぞれ独立した閉鎖的な経済圏として運営される可能性もある。異なるアプリ間で送金できるのか、同じ加盟店が双方を受け入れられるのかが、実際の相互運用性を測る基準になる。
今後は、実証実験の開始時期、対象となる通貨、参加銀行、利用店舗、加盟店への精算方法、ウォンへの償還経路を追う必要がある。提携発表から決済基盤への移行を判断する材料は、企業名の大きさではなく、既存の口座と店舗を結ぶ取引経路が実際に開通したかどうかである。
