Last Updated on 2026年10月6日 by oba3

暗号資産取引所クラーケン(Kraken)を運営するペイワード(Payward)とシンガポール・ガルフ・バンク(Singapore Gulf Bank・SGB)は、機関投資家向けデジタル資産市場で24時間365日の決済を可能にする提携を発表した。ペイワードはSGBのリアルタイム多通貨決済ネットワーク「SGB Net」を統合し、対象地域の一部機関顧客が米ドルを銀行側から暗号資産取引基盤へ時間帯を問わず移動できるようにする。
今回の本質は、暗号資産取引そのものを24時間化することではない。暗号市場はもともと週末を含めて動いている一方、法定通貨の銀行決済には営業時間や締め時刻が残る。この時間差を銀行側の決済ネットワークで埋めることで、機関投資家が取引所へ事前に余分な資金を置いておく必要を減らせるかが焦点になる。
何が起きたのか?
ペイワードとSGBは2026年10月5日、機関向けデジタル資産市場に24時間365日の決済を導入する戦略提携を発表した。ペイワードがSGB Netを統合し、両社の対象となる機関顧客が取引を時間帯に関係なく決済できるようにする。
サービスはまず米ドルから開始し、アジアと湾岸地域の一部対象顧客に限定して提供される。今後は利用顧客と対応通貨を拡大する計画だが、現時点で具体的な追加通貨や拡大時期は公表されていない。
またSGBは、クラーケンの機関向けプライムサービスであるクラーケン・プライム(Kraken Prime)を、デジタル資産取引の追加流動性源として導入する。SGBの顧客がデジタル資産を取引する際、クラーケン・プライム側の流動性へ接続する構成になる。
重要なのは、今回提供されるのが単なる「24時間の暗号資産売買」ではない点だ。中心にあるのは銀行口座から取引基盤へ米ドルを移し、その資金をすぐ利用可能にする法定通貨決済の常時化である。
なお、SGBは名称にシンガポールを含むが、シンガポールの銀行免許で運営されている銀行ではない。同行はバーレーン中央銀行の監督下で従来型ホールセール銀行として認可されている。
なぜ重要なのか?
暗号資産市場は24時間365日動く一方、銀行システムは同じ時間軸では動いてこなかった。この違いは、特に大口資金を扱うマーケットメーカー、ファンド、OTC事業者にとって資金管理上の制約になる。
週末や祝日に暗号市場で急な価格変動が起きても、銀行側から追加の米ドルをすぐ送れなければ、取引機会へ対応するためにあらかじめ取引所やカストディ口座へ多めの資金を置いておく必要がある。この事前資金は取引に使われていない時間でも拘束される。
SGB Netを通じて銀行マネーを常時移動できるなら、必要なタイミングで資金を取引環境へ送る選択肢が増える。これにより、取引所へ常時置いておく資本量を減らしたり、複数市場間で資金を再配分したりできる可能性がある。
ただし、今回の発表だけで実際の資本効率改善幅を数値化することはできない。手数料、利用上限、対象取引、必要な担保、実際の処理速度などの詳細は公表されていないためだ。
市場構造への影響
機関投資家向け暗号市場の課題の一つは、取引インフラと資金決済インフラの営業時間が一致していないことだった。価格は週末も動くのに、法定通貨を動かす銀行側のレールが止まれば、取引参加者は資金を前倒しで配置する必要がある。
今回の提携は、この問題をステーブルコインだけで解決するのではなく、銀行預金という既存金融のマネーを24時間の取引環境へ接続する点に特徴がある。暗号市場側を銀行営業時間へ合わせるのではなく、銀行側の決済機能を暗号市場の時間軸へ近づける設計だ。
これは取引所の機能追加というより、資金の待機時間を短くするインフラ競争として見る方がよい。機関投資家にとって重要なのは、注文画面が24時間開いていることではなく、必要な資金を必要な時間に動かせるかだからだ。
さらにSGBがクラーケン・プライムを流動性源として利用することで、銀行口座からの資金移動とデジタル資産取引の流動性接続が同じ提携内に組み込まれる。銀行決済と暗号流動性を別々に接続するモデルから、両方を一体化した機関向け基盤へ近づく構成になる。
資金・規制・流動性との関係
24時間決済が資金効率へ影響する理由は、事前資金の必要量にある。週末に銀行送金ができない環境では、機関投資家は価格変動や追加証拠金に備えて、通常より多い資金を取引先へ置くことがある。
銀行口座と暗号市場の間を常時接続できれば、必要になった時点で資金を移す運用へ近づける。これは同じ資本を複数の取引機会へ再配分しやすくする可能性がある一方、実際の効果は対象地域、取引限度額、リスク管理ルールによって変わる。
規制面では、SGBがバーレーン中央銀行の監督下にある銀行であることも重要になる。暗号資産市場の24時間性を実現するために銀行システムの外へ資金を完全に移すのではなく、規制銀行の口座と決済網を使ったまま時間制約を縮小しようとしているためだ。
流動性面では、SGBがクラーケン・プライムを追加のデジタル資産流動性源として利用することで、銀行側の顧客が資金を移した後の執行先も拡張される。ただし、今回の提携によって具体的にどれだけスプレッドや約定品質が改善するかは公表されていない。
そのため評価すべきなのは「24時間だから流動性が増える」と単純化することではない。銀行資金をどの程度迅速に移せるか、取引可能な流動性へどれだけ効率的に接続できるか、その両方を見る必要がある。
初心者向け補足
暗号資産は土日でも取引できるが、銀行送金は必ずしも同じように動いているわけではない。たとえば週末にビットコイン(Bitcoin)の価格が大きく動いても、機関投資家が銀行口座から追加の米ドルを取引所へ送れなければ、すぐに資金を増やせない場合がある。
そこで取引会社は、必要になる前から取引所へ資金を置いておくことがある。この方法なら週末でも取引できるが、使わない資金まで取引先へ預ける必要があり、資本効率が悪くなる場合がある。
今回の仕組みでは、SGB Netを使って対象となる米ドル取引を24時間決済できる。銀行口座にある資金を必要なタイミングでペイワード側へ移し、取引へ使える状態にすることが狙いになる。
ただし、すべてのクラーケン利用者が使えるサービスではない。開始時点ではアジアと湾岸地域の特定の機関顧客が対象であり、米ドルから段階的に展開される。
Web3Timesの視点
今回の提携で見るべきなのは、クラーケンに新しい決済機能が追加されたことではない。24時間動く暗号市場と、営業時間に制約されてきた銀行マネーの間にあった時間差が縮まり始めていることだ。
第一の観測点は、事前資金がどこまで減るかである。機関投資家が週末に備えて取引所へ置く資金を減らせるなら、24時間決済は単なる利便性ではなく資本利用効率の改善につながる。
第二は対応通貨だ。今回は米ドルから始まるが、ユーロや湾岸地域、アジアの主要通貨へ広がれば、24時間暗号市場と各国銀行マネーを接続するネットワークとしての意味が強くなる。
第三は流動性との一体化である。銀行口座から資金を即時に動かせても、取引先の板が薄ければ機関取引には使いにくい。SGB Netとクラーケン・プライムの接続によって、資金移動と執行流動性をどこまで一つの運用フローへまとめられるかが重要になる。
第四は、銀行マネー自体が24時間市場へ適応する流れが他社へ広がるかだ。暗号市場の時間差問題は、これまでステーブルコインが大きく埋めてきた。しかし規制銀行の預金を直接24時間決済へ接続できるなら、機関投資家は必ずしもすべての待機資金をステーブルコインへ変換する必要がなくなる。
暗号市場の次のインフラ競争は、取引所が24時間開いているかでは決まらない。銀行口座、法定通貨決済、取引流動性、カストディまでを同じ時間軸で動かせるかが重要になる。ペイワードとSGBの提携は、銀行マネーを暗号市場の24時間サイクルへ接続する実験として見ることができる。
