カルシがダブルゼロ経由でフル板情報の低遅延配信を開始、予測市場が機関投資家向け取引インフラへ踏み込む

Last Updated on 2026年8月13日 by oba3

予測市場のカルシ(Kalshi)が、ダブルゼロ(DoubleZero)の低遅延市場データ配信サービス「ダブルゼロ・エッジ」を通じ、リアルタイムのオーダーブック情報の提供を開始した。スポーツ市場や暗号資産の無期限先物を対象に、最良気配だけでなく複数価格帯の注文状況まで機械処理可能な形式で配信する。重要なのは、予測対象が政治なのかスポーツなのかという話ではない。専門取引会社やマーケットメーカーが必要とするフル板情報を専用通信網で届けることで、予測市場が伝統的な取引所と同じデータ速度や接続品質を競う市場へ近づいている点だ。

目次

何が起きたのか?

ダブルゼロ財団とカルシは2026年8月12日、カルシのライブオーダーブックをダブルゼロ・エッジ経由で配信開始したと発表した。カルシは、ダブルゼロの専用ファイバーネットワークを通じてリアルタイムの板情報を提供する最初の予測市場となる。

開始時点では、カルシで活発に取引されているスポーツ関連契約と暗号資産の無期限先物を中心に提供する。配信されるのはレベル1とレベル2の市場データだ。レベル1には最良買い気配、最良売り気配、成立した取引が含まれ、レベル2では複数の価格帯に並んでいる注文まで確認できる。

ダブルゼロ側は、カルシのスポーツ市場についてフルオーダーブックを提供すると説明しており、利用者は複数の価格水準に存在する注文量を機械処理可能な形式で受け取れる。従来、専門取引会社が詳細な板を利用するにはカルシのAPIから情報を取得し、自社システム内で板の状態を再構築する必要があった。今回のサービスでは、その処理を済ませたデータを一つの接続から受信できる。

過去の取引データは初期サービスには含まれず、ダブルゼロは今後追加する方針を示している。また、実測された通信遅延や契約企業数、個別の利用料金は現時点で詳細が公表されていない。カルシは最初の1年間、通常であればデータ提供者が受け取る収益分配を放棄するが、利用企業にはダブルゼロ・エッジへの接続費用が発生する。

なぜ重要なのか?

予測市場では、ある出来事が起きる確率を反映する価格が注目されやすい。しかし金融機関や高速取引会社が市場へ参加する場合、最終価格だけでは十分ではない。どの価格にどれだけの買い注文と売り注文が存在し、その注文がどの速度で追加、変更、取消されているのかが重要になる。

例えば最良の買値だけを見ると市場に十分な流動性があるように見えても、その直下の注文が極端に少なければ、大口注文を出した瞬間に価格が大きく動くことがある。レベル2の板情報があれば、複数の価格帯を確認しながら執行量や注文価格を調整できる。

さらに経済指標やスポーツ結果、暗号資産価格などを扱うイベント市場では、新しい情報が発表された直後に価格が急速に変化することがある。その局面では、情報を取得してから注文を変更するまでの通信時間が取引結果へ影響する。カルシが低遅延データ配信へ投資する理由は、こうした専門取引参加者の要求へ対応するためだ。

市場構造への影響

今回の導入で注目したいのは、予測市場がウェブサイトやアプリを通じて個人がイベントを取引するサービスから、機械同士が高速に価格を読み取って注文を出す市場へ範囲を広げていることだ。

ダブルゼロ・エッジでは、データを利用者ごとに個別送信するだけではなく、マルチキャストと呼ばれる方法を採用する。市場データを一度配信し、専用ネットワークを通じて接続した複数の取引参加者へ同時に届ける考え方である。ニューヨーク証券取引所やナスダック、シカゴ・マーカンタイル取引所など、伝統金融の取引インフラでも長く利用されてきた方式だ。

この方式が予測市場へ入ることで、競争条件は上場イベント数やユーザー数だけではなくなる。データ更新の速度、通信の安定性、板情報の深さ、機械による接続のしやすさといった取引所インフラの品質が重要になる。

特にマーケットメーカーにとっては、複数市場の価格を同時に読み取り、関連商品でヘッジする能力が重要だ。カルシの確率価格と暗号資産、先物、その他の金融商品の価格をリアルタイムで比較できれば、予測市場を独立した市場ではなく、複数資産を横断する取引戦略の一部として扱いやすくなる。

資金・規制・流動性との関係

低遅延データ基盤の導入は、予測市場へ資金を直接流入させる制度ではない。しかし専門マーケットメーカーが参加しやすくなれば、買値と売値の差を狭め、大口注文を受け止められる市場を作る条件の一つになる。

ここでは前回までの予測市場を巡る規制議論とも接続する。米商品先物取引委員会(CFTC)の監督下で取引市場として拡大するほど、カルシには価格形成だけでなく、データ配信、マーケットメーカー、取引監視など伝統的なデリバティブ取引所に近い機能が必要になる。

機関投資家が取引する市場では、注文を出せることだけでは不十分だ。市場データを安定的に取得し、自社のリスク管理システムへ取り込み、他市場と同時に価格を評価できる接続基盤が求められる。ダブルゼロ経由のフル板配信は、この部分を整える動きと位置付けられる。

一方、通信速度を競う市場では別の論点も生まれる。高速接続を利用できる参加者と一般利用者の情報取得速度に差が生じるため、アクセスの公平性やデータ料金の設計も重要になる。カルシが最初の1年間にデータ提供側の収益分配を受け取らない仕組みを選んだことは、まず専門事業者の接続を増やす段階にあることを示している。

初心者向け補足

オーダーブックとは、市場に出されている買い注文と売り注文を価格ごとに並べた情報だ。日本語では「板」と呼ばれる。例えばある契約について50セントで100口買いたい人、51セントで200口売りたい人がいる場合、その注文状況が板に表示される。

フルオーダーブックは、現在最も高い買値と最も安い売値だけではなく、その周辺に並ぶ複数価格帯の注文まで含む。これを見ることで、現在の価格だけでなく、どの程度の注文を入れると価格が動きそうなのかも把握しやすくなる。

低遅延とは、データが発生してから利用者へ届くまでの時間が短いことを指す。一般利用者が予測市場を利用する場合には数ミリ秒の差を意識しないことも多いが、自動売買を行うマーケットメーカーでは小さな時間差が注文価格やヘッジの成否へ影響する。そのため専門市場では通信網自体が取引インフラの一部になる。

Web3Timesの視点

Web3Timesが今回見るのは、カルシがイベント市場を増やしたことではない。重要なのは、予測市場の裏側に伝統金融型のデータインフラが入り始めたことだ。

市場が個人中心であれば、ウェブ画面に価格を表示し、APIを提供するだけでも一定の取引は成立する。しかしマーケットメーカー、定量取引会社、プロップ取引会社が本格的に参加すれば条件は変わる。フル板を連続的に取得し、価格計算、ヘッジ、注文変更を自動化できる専用データ経路が必要になる。

ダブルゼロとの接続は、カルシがこの参加者層を意識していることを示す。予測市場の価格が経済指標、暗号資産、スポーツなど他市場と関連するほど、専門取引会社にとって高速なデータ接続の価値も高まる。予測市場は出来事について意見を賭ける場所であると同時に、他の金融市場と価格情報を交換する取引所へ近づいていく余地がある。

今後見るべきなのはカルシ全体の出来高だけではない。ダブルゼロ経由の接続を利用するマーケットメーカーが増えるのか、売買価格差や板の厚さがどう変化するのか、スポーツと暗号資産以外の契約にもフル板配信が広がるのかが重要になる。予測市場の次の競争は、どんなイベントを上場できるかだけでなく、誰が最も速く、深く、安定して市場情報へ接続できるかという取引インフラの領域へ入り始めている。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Web3をやさしく解説するOba3

目次