Last Updated on 2026年7月30日 by oba3
米証券取引委員会のポール・アトキンス(Paul Atkins)委員長が、CLARITY法案の成立が遅れた場合でも、既存の証券法に基づく解釈、適用除外、規則制定を通じて暗号資産制度の整備を進める姿勢を示している。SECはすでに暗号資産の分類に関する解釈を公表し、資金調達、取引、カストディー、トークン化証券を対象とする規制計画を進めている。ただし、行政機関の規則だけで商品市場を含む包括的な監督区分を確定できるわけではない。今回の焦点は法案を行政規則で置き換えられるかではなく、議会が法律として決める範囲と、SECが現行法の解釈として先に形成できる範囲の競合にある。
何が起きたのか?
アトキンス委員長は2026年に入り、CLARITY法案への支持を繰り返し表明する一方、法案審議の完了を待たずにSECの暗号資産政策を進めてきた。2月の議会証言では、包括的な市場構造法が長期的な制度の安定に必要だと説明し、法案成立後はSECが実施を担う準備があると述べた。
一方、SECは3月、連邦証券法を暗号資産へどのように適用するかを整理した解釈を公表した。暗号資産そのものと、その販売に伴う投資契約を分け、すべてのトークンが常に証券として扱われるわけではないとの立場を明確にした。
アトキンス委員長は同時期に、暗号資産の資金調達を対象とするセーフハーバーや適用除外の枠組みを検討すると表明した。この構想は議会で積み上げられたCLARITY法案の考え方を参照しつつ、SECが保有する免除権限や規則制定権限を使って一部を先行実施するものと説明されている。
7月に公表されたSECの規制計画にも、暗号資産による資金調達のルール、トークン化証券の取引、カストディー、オンチェーン市場への対応が含まれた。法案が成立しない場合に適用する一つの完成済み規則が公表されたわけではないが、議会日程とは別に行政手続きを進める方針は明確になっている。
現時点で、CLARITY法案の本会議採決日や成立時期は確定していない。上院では倫理規定、分散型金融、マネーロンダリング対策、監督権限の調整が続いており、他案件との日程競争も残る。この停滞が長引けば、SECの解釈や適用除外が先に市場実務へ影響する可能性がある。
なぜ重要なのか?
議会が制定する法律と、SECが作る規則は同じではない。議会は証券と商品の監督境界を変更し、新しい登録制度を設け、SECと米商品先物取引委員会へ権限を割り当てることができる。これに対し、SECは原則として既存の証券法から与えられた権限の範囲内で行動する。
SECは、どの取引が投資契約に当たるか、証券を扱う事業者へ既存規則をどう適用するか、一定の取引を条件付きで免除するかを決められる。一方、証券ではない現物暗号資産の市場全体を恒久的に監督する新制度を、SECだけで作ることには限界がある。
そのため、行政規則はCLARITY法案の完全な代替ではない。立法を待つ間に証券法上の不確実性を減らす橋渡しにはなり得るが、商品市場、州法との関係、複数当局の権限分担を長期的に固定するには議会の法律が必要となる。
市場構造への影響
SECの規則形成が先行すれば、暗号資産市場の区分は一度に確定するのではなく、証券法の適用範囲から段階的に作られる。まず資金調達時の販売方法が整理され、その後に取引所、ブローカー、カストディー、トークン化証券の運用条件が定められる構成が考えられる。
この方法には、議会採決を待たずに実務上の指針を提供できる利点がある。事業者は、どの情報を開示し、どの登録を使い、どの条件でトークンを販売できるかを判断しやすくなる可能性がある。
一方、SECが定められるのは主に証券規制の領域である。証券ではないと判断された資産の現物取引について、誰が市場監視を行い、仲介事業者を登録し、顧客資産を保護するかという問題は残りやすい。行政規則が進むほど、規則のある証券領域と、包括的な連邦制度がない商品領域の差が目立つ場合もある。
さらに、SECの解釈や適用除外は将来の委員会構成によって変更される可能性がある。議会制定法より修正しやすいことは迅速な対応につながるが、経営陣の交代によって方針が反転する不確実性も残す。
法案成立前にSEC規則へ対応した事業者が、その後に成立する法律へ再びシステムを変更する可能性もある。行政側がCLARITY法案の構造を参考にしていても、議会の最終条文と完全に一致する保証はない。
資金・規制・流動性との関係
市場参加者にとって重要なのは、規則が存在するかだけではなく、どの資産と取引へ適用されるかである。SECが資金調達やトークン化証券の条件を明確にすれば、登録済み証券会社や運用会社は対象商品へ資本を配分しやすくなる可能性がある。
カストディーや取引に関する規則が先行すれば、顧客資産の記録、外部委託、監査、送金承認などの運用費用も具体化する。大手金融機関は既存の管理体制を応用しやすいが、小規模事業者には規則変更へ繰り返し対応する費用が重くなる場合がある。
適用除外によって新しい取引基盤が認められれば、規制下の市場へ注文や資産が集まる余地が生まれる。ただし、SECの権限外にあると判断された現物商品市場まで同じ流動性基盤へ統合されるとは限らない。
また、SECと米商品先物取引委員会が異なる基準を採用すれば、同じ暗号資産でも販売段階、保有段階、デリバティブ取引で異なる規則が適用される可能性がある。両機関の共同作業はこの差を縮められるが、法律による権限移管と同じ効果を持つわけではない。
行政規則には司法審査のリスクもある。SECが既存法の範囲を越えたとして事業者や州が提訴すれば、規則の施行が止まり、市場参加者が準備した登録やシステムの前提が変わる可能性がある。規則の速度と法的な耐久性は別に評価する必要がある。
初心者向け補足
法律は議会が可決し、大統領の署名などを経て成立する。行政規則は、議会が法律で与えた権限に基づき、SECなどの行政機関が詳細な運用条件を定めるものである。
行政機関は法律の空白を自由に埋められるわけではない。既存法を解釈し、登録手続きや開示義務を具体化することはできるが、議会が与えていない新しい監督権限を独自に作れば裁判で争われる可能性がある。
セーフハーバーは、一定の条件を守る事業者について、通常の規制を直ちに全面適用しない仕組みである。無規制を意味するものではなく、情報開示、期限、利用者保護などの条件が付く場合が多い。
Web3Timesの視点
アトキンス委員長の方針を、CLARITY法案が成立しなくてもSECが同じ制度を作れるという話として読むべきではない。SECが先に整備できるのは、既存の連邦証券法が届く範囲であり、暗号資産市場全体の監督区分を恒久的に書き換える権限ではない。
今回見るべきなのは、議会の失敗を行政が補うという単純な関係でもない。SECが法案に近い規則を先に作れば、議会審議の前提となる市場実務が行政判断によって形成される。後から成立する法律は、その実務を追認するか、修正するかを選ぶことになる。
反対に議会が詳細な法律を成立させれば、SECの裁量は狭まり、将来の委員長が分類基準を変更できる範囲も限定される。行政規則は迅速性を持ち、議会立法は長期的な安定性と広い権限配分を持つ。市場参加者はどちらか一方だけを待てばよいわけではない。
今後確認すべきなのは、アトキンス委員長の発言だけではない。SECが正式に提案する規則の対象、根拠条文、意見募集期間、施行時期、米商品先物取引委員会との共同範囲を見る必要がある。同時に、CLARITY法案の最終文案がSECの先行措置を維持するのか、置き換えるのかも重要になる。
米国の暗号資産制度は、法案成立か行政対応かの二者択一ではなくなっている。議会が市場全体の権限を配分する前に、SECが証券領域の境界を具体化し、その規則が取引と資産保管の実務を先に形作る可能性がある。制度の行方を決めるのは、どちらが先に動くかだけでなく、先に作られた規則を最終的に誰が修正できるかである。

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