HSBCとスタンダードチャータードがSwift台帳で初の実取引、銀行預金が24時間型の国際決済インフラへ移行

Last Updated on 2026年8月20日 by oba3

HSBCとスタンダードチャータード(Standard Chartered)が、国際銀行間通信網スウィフト(Swift)の新しいブロックチェーン型共有台帳を使い、トークン化預金による初の銀行間ライブ取引を実施した。両行のトークン化預金システムで生じた支払い義務をスウィフトの台帳上で記録し、照合・ネッティングした後、最終的な決済は既存システムを通じて行われた。これは銀行預金そのものがスウィフト上で完全決済されたという意味ではない。それでも、世界の銀行をつないできた既存ネットワークが24時間利用を前提とする共有台帳へ踏み込み、銀行預金をトークン化して国境を越えて接続し始めた意味は大きい。ステーブルコインだけが24時間動くデジタルマネーになるのではなく、規制銀行の預金も同じ利用時間と処理速度を目指す競争が始まっている。

目次

何が起きたのか?

HSBCとスタンダードチャータードは2026年8月19日、スウィフトのブロックチェーン型台帳を利用し、銀行間でトークン化預金を接続する初のライブ越境取引を完了したと発表した。

取引では、HSBCのトークン化預金サービスとスタンダードチャータードのトークン化預金基盤に、それぞれ銀行間の支払い義務がトークン化預金として記録された。スウィフトの共有台帳は両行の間に入り、支払いメッセージから生じた義務を照合し、ネッティングするオーケストレーション層として機能した。

ここで注意したいのは、最終決済までスウィフトのブロックチェーン型台帳だけで完結したわけではない点だ。今回の実取引では、台帳上で義務を記録・照合した後、最終的な資金決済は既存の銀行システムを通じて行われた。したがって現時点では、従来の決済網を完全に置き換える仕組みではなく、トークン化預金と既存インフラを接続する段階にある。

スウィフトは2026年7月、17の銀行が6大陸から参加し、この台帳を使った24時間対応のトークン化越境決済を試行すると発表していた。今回のHSBCとスタンダードチャータードの取引は、その計画で初めて実取引が実行された事例となる。

なぜ重要なのか?

国際送金では現在、銀行が相手銀行やコルレス銀行との間でメッセージを送り、複数の口座や決済システムを通じて資金を移す。そのため送金指示が届く時間と実際に資金が最終決済される時間は必ずしも一致せず、営業時間や地域ごとの決済網にも左右される。

トークン化預金と共有台帳を組み合わせる狙いは、この分断を小さくすることにある。複数銀行が同じ台帳上で支払い義務の状態を確認できれば、どの銀行がいくら支払う必要があるのかを共通の記録として扱い、照合やネッティングをより連続的に行える。

特に大きいのは24時間運用への対応だ。ステーブルコインはすでに休日や深夜でもブロックチェーン上を移動できる。一方、銀行預金を使った国際決済は既存市場の営業時間や決済インフラに依存する部分が残る。スウィフトが常時稼働型の台帳を整備することで、銀行預金側もこの時間差を縮めようとしている。

市場構造への影響

ステーブルコインとトークン化預金は、どちらも法定通貨に近い価値をデジタルに移転する仕組みだが、負債の発行主体が異なる。ステーブルコインは通常、ステーブルコイン発行会社に対する請求権や準備資産を基礎とする。一方、トークン化預金は銀行預金をデジタル台帳上で表現するため、銀行のバランスシート上にある預金という既存の金融関係を維持する。

この違いが決済市場の競争を複雑にする。これまでは、24時間送金という機能面ではブロックチェーン型ステーブルコインが先行していた。しかし銀行預金も共有台帳上で常時移転できるようになれば、企業は既存銀行との関係を維持したまま同様の速度を得られる可能性がある。

さらにスウィフトには世界各国の銀行を結ぶ既存ネットワークがある。新しいデジタルマネーをゼロから普及させるのではなく、銀行がすでに使っている通信・コンプライアンス基盤へ共有台帳を追加できれば、トークン化預金の普及経路はステーブルコインとは異なるものになる。

一方、今回の取引だけで銀行間決済が完全なオンチェーン型へ切り替わったとは言えない。最終決済は既存システムに残っており、現在のスウィフト台帳は銀行間の義務を同期させる中間層としての性格が強い。今後、台帳上の記録と中央銀行マネーによる最終決済をどこまで近づけられるかが次の段階になる。

資金・規制・流動性との関係

国際銀行間決済では、各銀行が支払いを確実に実行するため複数の市場や通貨で資金を準備する必要がある。送金のタイミングや入出金の状態をリアルタイムに把握できなければ、安全のため余分な流動性を置く必要も生じる。

共有台帳上で銀行間の債権・債務を照合し、複数の支払いをネッティングできれば、最終的に移動させる資金量を抑えられる可能性がある。スウィフトが今回の仕組みで流動性効率を重視しているのは、送金時間を短縮するだけでなく、銀行が越境決済のために拘束している資金をより効率的に管理する狙いがあるためだ。

規制面では、トークン化預金には銀行という既存の監督主体が存在する。本人確認、マネーロンダリング対策、預金管理などを既存の銀行規制へ接続しやすいことは、企業や機関投資家が利用する際の利点になり得る。

ただし、銀行預金を24時間移転できることと24時間最終決済できることは同じではない。中央銀行マネーや既存決済システムが停止している時間帯に、銀行間の最終的な資金移転をどのように確定させるかは引き続き重要な課題だ。今回の実取引はその完成形ではなく、共有台帳による同期と既存決済を組み合わせた初期の実装と見る必要がある。

初心者向け補足

トークン化預金とは、銀行口座にある預金をブロックチェーンなどの共有台帳上でデジタルな単位として表現する仕組みだ。新しい暗号資産を発行するというより、既存の銀行預金を新しい技術基盤から移転できるようにする考え方に近い。

ステーブルコインとの大きな違いは発行主体だ。トークン化預金は銀行への預金請求権を基礎とする一方、ステーブルコインは民間発行会社が準備資産を持ち、それを基にトークンを発行する場合が多い。

またスウィフトは従来、銀行間で支払い情報を送る通信ネットワークとして利用されてきた。今回の新しい台帳では、単にメッセージを送るだけでなく、複数銀行の支払い義務を共通の台帳で記録、照合、ネッティングする機能が加わっている。

今回の実取引でも最終決済は既存システムを使っているため、銀行預金が完全にブロックチェーン上だけで動いたわけではない。この違いを理解すると、現在の銀行トークン化がどこまで進んでいるのかを正確に捉えやすい。

Web3Timesの視点

Web3Timesが今回見るのは、HSBCとスタンダードチャータードがブロックチェーンを採用したという技術導入ニュースではない。焦点は、銀行預金という既存金融の中核資産が24時間動く共有台帳へ入り始めたことだ。

ステーブルコインが国際決済で存在感を高めた理由の一つは、銀行営業時間に依存せず資金を移せることだった。銀行側が同じ時間軸で預金を移転できるようになれば、決済インフラの競争は暗号資産対銀行という単純な構図ではなくなる。

企業にとって選択肢は、ステーブルコインを使うか銀行送金を使うかだけではなく、規制銀行の預金をトークン化して常時移転するという第三の経路へ広がる。しかもスウィフトの既存ネットワークを使えるなら、銀行ごとに独立したトークン化預金を作るだけでなく、それらを相互接続する共通層を構築できる。

今後注目されるのは、参加銀行が17行から何行へ増えるかだけではない。異なる銀行のトークン化預金をどこまで相互運用できるのか、台帳上の義務記録から最終決済までの時間差をどこまで縮められるのか、さらにステーブルコインや中央銀行マネーとどのように接続するのかが焦点になる。デジタル決済の競争は新しい通貨を発行する企業だけのものではなく、既存銀行の預金そのものを24時間型インフラへ載せ替えられるかという銀行網の再設計へ進んでいる。

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