Last Updated on 2026年9月1日 by oba3
暗号資産デリバティブ市場で存在感を高めてきたハイパーリキッド(Hyperliquid)が、クラーケン(Kraken)の親会社ペイワード(Payward)と連携し、米国市場へ永久先物を提供する可能性を探っている。重要なのは、ハイパーリキッドがそのまま米国へ進出する構図ではないことだ。米商品先物取引委員会(CFTC)の規制下にある取引・清算・仲介基盤を経由し、オフショアやオンチェーンを中心に発展してきた永久先物を米国内の制度へ接続しようとしている。
何が起きたのか?
2026年8月31日の報道によると、ハイパーリキッド・ラボとペイワードは、ハイパーリキッドに関連する暗号資産永久先物の一部を米国の投資家へ提供する仕組みについて協議している。
想定されているのは、ペイワード傘下のビットノミアル(Bitnomial)を規制市場側の受け皿とする方式だ。米国の登録利用者がハイパーリキッドの分散型取引所へ直接アクセスするのではなく、ビットノミアルを通じてハイパーリキッド上の市場と関連する一部の永久先物へアクセスする形が検討されている。
ペイワードはすでに、この仕組みの概要をCFTCへ提示したと報じられている。ただし最終的な規制承認は得られておらず、対象となる暗号資産、契約数、正式な開始時期なども公表されていない。現時点では提供決定ではなく、規制当局との調整を伴う制度設計の段階として見る必要がある。
ペイワードは2026年5月、最大5億5000万ドルの条件でビットノミアルの買収を完了した。これにより同社は、CFTCの規制下にある指定契約市場、デリバティブ清算機関、先物取引業者を含む米国内のデリバティブ基盤を傘下に収めている。
なぜ重要なのか?
永久先物は、満期を設定せずに原資産の価格変動へ継続的にエクスポージャーを取れるデリバティブだ。暗号資産市場では主要な取引商品となってきた一方、成長の中心は米国外の取引所やオンチェーン市場だった。
米国では商品先物やデリバティブを提供するために取引所、清算、顧客資産管理など複数の規制要件を満たす必要がある。そのため、世界市場で利用されている永久先物の仕組みをそのまま米国ユーザーへ開放することは難しかった。
一方、クラーケンは2026年6月、ビットノミアルの基盤を利用して米国の適格顧客向けにCFTC規制下の永久先物を開始している。ビットコイン(Bitcoin)、イーサリアム(Ethereum)、ソラナ(Solana)、XRPなどを対象とし、米国内でも永久先物を扱う経路がすでに作られ始めている。
今回のハイパーリキッドとの協議は、その規制基盤をペイワード自身の商品だけでなく、外部のオンチェーン市場へ広げられるかを試す動きになる。
市場構造への影響
ここで見るべきなのはハイプ(HYPE)の価格ではなく、暗号デリバティブ市場の地理的な分断がどう変わるかだ。
これまで永久先物市場では、流動性と取引技術の多くがオフショア取引所やオンチェーン市場に蓄積されてきた。その一方で、米国では国内規制に対応した取引所、清算機関、仲介事業者を通す必要があり、同じ商品であっても市場が分かれていた。
今回検討されている仕組みでは、ハイパーリキッドそのものを米国の取引所として認めるのではなく、米国ユーザーとの間にビットノミアルという規制された市場インフラを置く。このモデルが認められれば、オンチェーン側に存在する市場や商品設計と、米国側の規制済み取引・清算基盤を別々に維持しながら接続する道が生まれる可能性がある。
つまり競争軸は、取引所がすべての流動性を自社内部へ集めるモデルだけではなくなる。規制市場がゲートウェイとなり、その外側にあるオンチェーン市場や第三者のデリバティブ商品を取り込む形も選択肢になり得る。
資金・規制・流動性との関係
ペイワードがビットノミアルを買収した意味は、ここで大きくなる。同社は取引画面や顧客基盤だけでなく、米国でデリバティブを扱うために必要な取引、清算、仲介のライセンスと設備を内部に持つようになった。
その基盤を外部企業にも提供するのが、企業向けインフラ事業のペイワード・サービス(Payward Services)だ。永久先物を含む規制商品を自社ブランドだけで販売するのではなく、フィンテック、金融機関、取引サービスなどが接続できるB2B基盤として展開する戦略が示されている。
ハイパーリキッドとの連携が実現すれば、このB2Bモデルとオンチェーン市場が交わる例になる。ただし、どの注文がどこで執行されるのか、清算をどこまでビットノミアル側で完結させるのか、ハイパーリキッド側の流動性をどのような形で参照するのかといった詳細はまだ明らかになっていない。
また、カストディや注文ルーティングなどを巡ってCFTCだけでなく米証券取引委員会(SEC)との制度整理が必要になる可能性も指摘されている。規制された入口を用意しただけで米国参入が確定するわけではなく、既存のデリバティブ規則とオンチェーン市場をどう接続するかが今後の焦点になる。
初心者向け補足
永久先物は一般的な先物とは異なり、契約に満期日がない。通常は現物価格から大きく離れないよう資金調達率などの仕組みを利用し、買い手と売り手の間で一定の調整を行う。
暗号資産では24時間365日取引できる市場との相性が良く、世界では広く利用されている。ただしレバレッジを伴うことが多いため、現物取引とは異なる規制やリスク管理が求められる。
今回の構想で重要なのは、米国利用者がハイパーリキッドへ直接接続するわけではない点だ。ビットノミアルのような米規制事業者を間に置き、本人確認、取引管理、清算などを既存制度の中で処理しながら、外部市場と連携できるかが試されている。
Web3Timesの視点
ハイパーリキッドの米国参入を「大手DEXが米国へ来る」という一言で捉えると、本質を見落とす。今回注目したいのは、オフショアやオンチェーンで先に成長した市場を、米国規制の内側へどのような制度経路で取り込むかだ。
ペイワードはビットノミアル買収によって米国内の取引・清算・仲介基盤を確保し、すでに自社で永久先物を提供している。その次に外部市場であるハイパーリキッドとの接続まで実現すれば、規制事業者がオンチェーン市場への入口を提供する新しい役割が見えてくる。
これは分散型取引所が既存金融を置き換える話でも、従来型取引所がオンチェーン市場を吸収する話でもない。オンチェーン側で形成された商品や流動性と、米国側のライセンス、清算、顧客管理を分業して結ぶ構図だ。
今後確認すべきなのは、ハイパーリキッドが米国で直接サービスを提供できるかではなく、どの部分を規制市場側に残し、どの部分をオンチェーン側へ接続できるかである。その境界線が定まれば、永久先物だけでなく、今後登場するオンチェーン型デリバティブを米国市場へ持ち込むための制度モデルへ発展する余地がある。
