Last Updated on 2026年9月4日 by oba3
米ミシガン州の州裁判所が、予測市場カルシ(Kalshi)に対し、州内の利用者へスポーツ関連イベント契約を提供しないよう求める仮差し止め命令を出した。6月から続いていた一時的な停止措置を、訴訟の最終判断まで続く命令へ切り替えた形だ。重要なのは、ミシガン州だけでスポーツ契約が止まることではない。米商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission・CFTC)の規制を受ける市場であっても、州がスポーツ賭博法を適用できるなら、連邦レベルの認可だけで全米へ同じ商品を提供するモデルが成立するのかという問題が浮上する。
何が起きたのか?
ミシガン州インガム郡巡回裁判所のローズマリー・アキリーナ判事は2026年9月1日、州司法長官がカルシに対して求めていた仮差し止めを認めた。命令は、6月に出された一時的差し止めを引き継ぎ、訴訟で最終命令が出るまで効力を持つ。
カルシはミシガン州内の利用者に対し、スポーツの勝敗、マネーライン、オーバー・アンダー、試合中の結果、個別選手の成績など、州法上のインターネットスポーツ賭博に該当すると裁判所が判断した商品について、提供、注文照合、執行、清算、決済などを行うことを禁じられた。
さらにカルシには、ミシガン州当局が認める第三者の位置情報サービスを使って州内からのアクセスを遮断することが求められた。裁判所が位置情報要件への違反を認定した場合、1日当たり50万ドルの制裁金が科される。カルシ経由のスポーツイベント契約を顧客へ提供する先物取引業者にも、命令を通知するよう求められている。
ただし、これはカルシの事業全体を違法とする最終判決ではない。訴訟が続く間の仮差し止めであり、連邦法が州法に優先するかという中心的な争点について全国共通の結論が出たわけでもない。
なぜ重要なのか?
カルシはCFTCに指定契約市場として登録され、スポーツを含む出来事の結果に連動するイベント契約を金融市場の商品として提供してきた。同社側の基本的な主張は、連邦商品法の下で取引されるイベント契約はCFTCの排他的な管轄にあり、州ごとの賭博規制を重ねるべきではないというものだ。
これに対してミシガン州は、スポーツの結果へ金銭を投じるサービスである以上、州のスポーツ賭博法と消費者保護制度を適用できると主張している。同州では通常の合法スポーツ賭博は21歳以上が対象だが、カルシでは18歳から利用できることも裁判所が問題視した。
裁判所はそのほか、依存症対策、利用者保護、州の税収、既存の認可事業者との競争条件なども仮差し止めを認める理由として挙げた。つまり争点は商品の名称が「イベント契約」か「賭け」かだけではなく、誰が利用者保護や営業条件を設定する権限を持つかに広がっている。
市場構造への影響
予測市場にとって連邦規制の最大の利点の一つは、一つの市場へ全米の注文を集約できることにある。同じスポーツ契約を多くの州で提供できれば、買い手と売り手を一つの注文板へ集め、価格形成と流動性を集中させやすい。
しかし州裁判所が州賭博法を個別に適用できる状態が続けば、このモデルに地理的な境界が入る。ある州では利用でき、別の州では位置情報によって遮断される市場になれば、連邦認可が事実上の全国営業パスポートとして機能するとは限らなくなる。
これはカルシだけの問題でもない。予測市場を提供する事業者や、カルシの商品を顧客へ仲介する証券・先物プラットフォームも、利用者の所在地ごとに商品の表示、口座アクセス、注文執行を変える必要が出る可能性がある。
全国共通の商品市場を作る事業者にとって、州境を越えるたびに規制条件が変わることは単なる法務コストではない。注文をどこへ集められるかという市場設計そのものに関わる。
資金・規制・流動性との関係
州側が重視しているのは、スポーツ賭博から得られる税収やライセンス料だけではない。年齢確認、依存症対策、自己排除制度、広告規制など、州が既存のスポーツブックへ課してきた条件を予測市場にも適用できるかが問題になっている。
カルシ側から見れば、州ごとの免許や規則に従うことになれば、全国へ一つの商品を提供するコストは大幅に上がる。位置情報管理や州別の商品制限が必要になり、参加者が分断されれば一部契約の流動性にも影響する可能性がある。
一方で今回の命令だけから、CFTCの権限そのものが否定されたと見るのは早い。カルシが連邦規制市場であることと、スポーツ関連商品に州法が適用されるかは別の争点であり、各地の訴訟でも判断は一致していない。
今後、連邦控訴裁判所や米連邦最高裁が連邦法と州法の優先関係を明確にすれば、予測市場の営業範囲と参入条件が全国レベルで整理される可能性がある。それまでは司法判断そのものが市場アクセスを決める状況が続く。
初心者向け補足
カルシのイベント契約は、例えば「あるチームが試合に勝つか」といった出来事について結果に応じて価値が決まる契約を売買する仕組みだ。カルシはこれをCFTCの監督を受けるデリバティブ市場の商品として提供している。
一方、米国のスポーツ賭博は通常、州政府が免許を与え、営業可能地域や最低年齢などを定めている。このためスポーツ結果を対象にしたイベント契約が連邦規制の商品なのか、州が監督する賭博なのかという二つの法体系が衝突している。
今回の仮差し止めは、裁判が終わるまでミシガン州内でスポーツ関連契約を止める措置だ。最終的にカルシの主張が否定されたことや、米国全体で同じルールが確定したことを意味するものではない。
Web3Timesの視点
今回を見る際に重要なのは「ミシガン州でカルシが禁止された」という地域ニュースではない。問われているのは、CFTCから認められた市場が、その資格だけで全米へ同じ商品を提供できるのかという連邦免許の実効性だ。
予測市場の強みは、全国の参加者を同じ市場へ集められる点にある。州がスポーツ契約ごとに営業を止められるなら、連邦市場でありながら実際の提供範囲は50州の法制度によって切り分けられる。この違いは、予測市場を一つの全国金融市場として設計できるかどうかを左右する。
さらに、今回の命令はカルシだけで完結しない。先物取引業者やアプリを通じてイベント契約を提供する場合にも州境を認識する必要があり、市場の入口となる仲介事業者まで規制対立の影響を受ける。
今後見るべきなのはミシガン州での取引量ではない。連邦裁判所が州の賭博規制をどこまで認めるのか、最高裁が連邦商品法との優先関係を整理するのか、そしてCFTC認可が全国営業権としてどこまで機能するのかだ。その答えによって、米国の予測市場が一つの全国市場になるのか、州境ごとに分断された市場になるのかが決まってくる。
