Last Updated on 2026年9月6日 by oba3
暗号金融企業オープンリザーブ(OpenReserve)が、米通貨監督庁(Office of the Comptroller of the Currency・OCC)から預金保険付きフルサービス国法銀行の設立について予備的な条件付き承認を取得した。計画される銀行は、通常の預金や融資に加え、トークン化預金、暗号資産カストディ、国際送金、決済などを提供する。さらに別子会社によるドル建てステーブルコイン事業も構想する。注目すべきなのは暗号企業が銀行になるという話だけではない。これまで信託銀行や個別ライセンスに分かれていた暗号資産サービスを、預金を受け入れ融資まで行うフルサービス銀行の内部へ組み込もうとしている点だ。
何が起きたのか?
OCCは2026年9月2日、ユタ州ソルトレークシティを本店所在地とするオープンリザーブ・バンク(OpenReserve Bank, National Association)の設立申請を予備的に条件付き承認した。申請は4月13日に提出されており、支店を持たないフルサービスの国法銀行として開業する計画だ。
OCCの決定文によると、同行は預金と融資を提供し、すべての預金商品にトークン化機能を組み込む計画を持つ。このほか決済、財務管理、デジタル資産サービス、外国銀行とのコルレス業務、バンキング・アズ・ア・サービスなども事業範囲に含まれる。
暗号資産については、子会社を通じたカストディを計画している。顧客は暗号資産やステーブルコインを利用した国際送金も行える想定だ。また取引や送金などから暗号資産で手数料を受け取ることも計画されており、原則として1営業日以内に法定通貨へ変換するか、オンチェーン取引のガス代など認められた用途のために保有する。
さらに100%子会社を設立し、米ドル建て準備資産型ステーブルコインの発行、保管、交換、決済を行う構想がある。ただし、このステーブルコイン子会社についてはまだ申請自体が提出されていない。今回の条件付き承認によってステーブルコイン発行まで確定したわけではない。
なぜ重要なのか?
暗号資産企業による米国銀行免許の取得では、これまでカストディなど限られた業務を担う国法信託銀行が注目されてきた。信託銀行は暗号資産を保管するには適している一方、一般的な銀行のように預金を受け入れ、その資金を基盤として融資するモデルとは異なる。
オープンリザーブが目指すのは、預金保険付きのフルサービス銀行だ。実現すれば、顧客から預金を受け入れ、融資や決済を行いながら、同じ銀行グループの中でトークン化預金や暗号資産カストディまで扱える。
これは暗号資産を既存銀行の周辺サービスとして追加するだけではない。銀行の中核である預金と信用供与そのものをオンチェーン技術へ接続する制度設計になる。
市場構造への影響
トークン化預金は、銀行預金という法的関係を残したまま、その残高や移転機能をブロックチェーンなどのデジタル基盤へ接続する考え方だ。民間ステーブルコインとは異なり、銀行との預金関係を基礎にできる点が特徴となる。
オープンリザーブの計画では、そのトークン化預金と暗号資産カストディ、決済、国際送金を一つの銀行基盤に配置する。さらに将来ステーブルコイン子会社が認められれば、銀行預金としてのデジタルドルと、外部へ流通できる準備資産型ステーブルコインを同じグループで扱う構図も生まれる。
このモデルが成立すれば、銀行、カストディ会社、ステーブルコイン発行会社を別々に接続する必要性の一部が薄れる可能性がある。暗号金融企業が既存銀行へサービスを提供する立場から、自ら銀行のバランスシートと決済口座を持つ立場へ移るためだ。
資金・規制・流動性との関係
条件付き承認には厳しい資本要件が付いている。オープンリザーブは開業前費用を差し引いたうえで最低2億1000万ドルの払込資本を確保し、開業後3年間はTier 1レバレッジ比率(Tier 1 leverage ratio)を12%以上に維持する必要がある。
さらに条件付き承認から12カ月以内に必要資本を調達し、18カ月以内に開業できなければ、原則として承認は失効する。連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation・FDIC)の預金保険を取得し、連邦準備銀行への出資手続きも完了しなければならない。
ステーブルコイン事業についても自由に始められるわけではない。ジーニアス法(GENIUS Act)や今後の実施規則へ適合する必要があり、子会社設立には別の審査が残る。つまり今回認められたのは、暗号資産サービスを含む銀行モデルを設立準備へ進める制度経路であり、計画される全商品への一括承認ではない。
初心者向け補足
国法信託銀行とフルサービス国法銀行の違いは重要だ。信託銀行は資産保管や信託業務を中心とし、一般的な預金受け入れや融資を行わない場合がある。一方、今回オープンリザーブが目指す銀行は、預金保険付き預金を受け入れ、融資や決済まで提供する通常の銀行機能を持つ。
また条件付き承認は営業開始を意味しない。OCCは最終的なIT構成、情報セキュリティ、マネーロンダリング対策、制裁対応、信用リスク管理などを開業前に確認する。すべての条件を満たし最終承認を得るまでは、銀行として預金を受け入れることはできない。
トークン化預金とステーブルコインも同一の商品ではない。前者は銀行預金をデジタル化する仕組みであり、後者は別途発行されるドル連動トークンだ。オープンリザーブの構想が特徴的なのは、この異なる二つのデジタルマネーを一つの銀行グループから扱おうとしている点にある。
Web3Timesの視点
今回を暗号企業による新しい銀行免許取得としてだけ見ると、制度上の変化を小さく捉えてしまう。重要なのは、暗号金融企業が限定的な信託銀行ではなく、預金を受け入れ融資を行うフルサービス銀行へ進む経路が実際のOCC審査を通過し始めたことだ。
これまで暗号金融では、ドルの保管は銀行、暗号資産の保管はカストディ会社、オンチェーン決済はステーブルコイン発行会社という分業が一般的だった。オープンリザーブは、それらの一部を銀行という一つの規制主体を中心に再構成しようとしている。
見るべきなのは将来発行されるステーブルコインの規模だけではない。トークン化預金が実際の銀行預金としてどこまでオンチェーン決済へ利用されるのか、カストディと融資を同じ顧客関係で提供できるのか、そしてステーブルコイン子会社が別途承認されるかが重要になる。
これらが実現すれば、暗号資産企業が銀行の外側から金融インフラへ接続するモデルだけでなく、自ら銀行免許を持ち、預金・信用・カストディ・デジタル決済をまとめて提供するモデルが選択肢になる。暗号金融と銀行の境界は、提携によって薄れるだけでなく、免許そのものを取得することで内部から組み替えられる段階へ進み始めている。
