XRP Ledgerが機関向け秘匿送金機能を提案、RWA市場では完全透明性より規制対応できる選択的開示が競争軸に

Last Updated on 2026年8月10日 by oba3

XRPレジャー(XRP Ledger・XRPL)で、機関投資家向けに残高と送金額を秘匿できる「コンフィデンシャル・トランスファー(Confidential Transfers)」が提案されている。対象はマルチパーパス・トークン(Multi-Purpose Tokens・MPT)で、個別の保有残高や送金額を公開台帳から隠しながら、発行量の整合性を検証し、必要な相手には情報を開示できる設計を目指す。重要なのはXRPLが単純にプライバシー機能を追加することではない。RWAを機関金融へ広げるうえで、誰に対してもすべてを公開する透明性から、監査や規制対応に必要な相手だけへ情報を見せる選択的開示へ設計思想を広げようとしている点だ。

目次

何が起きたのか?

XRPLでは「XLS-96」と呼ばれる仕様として、MPT向けの秘匿送金機能が提案されている。仕様は2026年1月15日に作成され、現時点ではドラフト段階にある。すでに専用の開発ネットワークでテストできる環境は用意されているが、メインネットで一般利用できる機能として確定したわけではない。

XLS-96では、ECエルガマル暗号とゼロ知識証明(ZKP)を組み合わせ、個別口座の残高や送金額を暗号化する。通常の公開ブロックチェーンでは、アドレスと送金額を第三者が確認できるが、この方式ではバリデーターや外部の観察者から具体的な金額を隠したまま取引を検証することを想定している。

一方、すべての情報を完全に隠す設計ではない。発行上限など供給量に関わるルールは公開状態で検証できるようにし、発行体や監査人など指定された主体には必要に応じて情報を確認させる仕組みを持つ。仕様ではオンチェーンの監査人モデルと、発行体が管理する閲覧用の鍵を利用する方法の両方が示されている。

また、送金に関与するアカウントやトークンの種類、取引の種類まで完全に隠れるわけではない。秘匿の中心となるのは個別残高と送金額であり、匿名性を最大化する暗号資産とは目的が異なる。機関投資家が取引条件を競合他社へ公開せず、それでも監査可能性を維持することが主眼に置かれている。

なぜ重要なのか?

公開ブロックチェーンでは透明性が大きな特徴とされてきた。しかし金融機関にとって、すべての残高や取引額が誰からでも見えることは必ずしも利点ではない。大口の担保移動、ファンド間の資金移動、取引先への支払いなどが公開されれば、ポジションや取引戦略、顧客情報を外部から推測される場合がある。

これはRWAが実証実験から実際の金融取引へ移るほど大きな問題になる。例えばトークン化された債券やファンド持ち分を機関同士で移動するとき、ブロックチェーン上で正しく処理されたことは確認したい一方、取引金額を競合企業や一般利用者へ知らせる必要はない。

そこで重要になるのが「公開か非公開か」という二択ではなく、誰に何を開示するかを制御する設計だ。規制当局、監査人、発行体には確認できる一方、市場全体には個別の金額を公開しない。XLS-96は、この中間領域をプロトコル側で扱おうとしている。

市場構造への影響

RWA市場ではこれまで、ブロックチェーンへ資産を発行できること自体が注目されてきた。しかし実際に機関金融をオンチェーンへ移す段階では、発行機能だけでは足りない。本人確認、譲渡制限、凍結、回収、監査、秘匿性といった既存金融で必要な運用条件を、どこまでチェーン上で再現できるかが問われる。

XRPLのMPTは、機関向けトークン発行を想定した仕組みとして、保有者の承認制御や発行体による管理機能を備えている。そこへ秘匿送金が加われば、トークン化された資産について「誰が保有できるか」と「誰が取引情報を見られるか」を別々に管理できる余地が生まれる。

これはRWA向けブロックチェーンの競争軸にも影響する。単純な処理速度や手数料だけではなく、機関投資家が既存の情報管理基準を維持したままオンチェーン取引へ参加できるかが重要になるためだ。

公開性を最大化したチェーンが必ずしも機関金融で有利とは限らない。反対に完全な非公開環境では、第三者が供給量や取引の正当性を確認しにくくなる。公開検証と取引秘匿をどこまで両立できるかが、RWAインフラの差別化要因になる可能性がある。

資金・規制・流動性との関係

機関投資家が資産をオンチェーンへ移す際には、資産そのものの法的位置付けだけでなく、取引情報の扱いも問題になる。ファンド、銀行、証券会社などは顧客情報や取引情報を無制限に公開できないため、公開台帳の透明性が導入障壁になる場合がある。

XLS-96では、個別残高や取引額を秘匿しながらも、必要に応じて監査主体へ情報を開示する仕組みが検討されている。これが実用化されれば、規制対応と営業上の秘密を同時に維持しやすくなる。RWAをオンチェーンへ移す企業にとっては、単なるプライバシー機能ではなく業務要件に近い。

一方で、秘匿性を追加すれば新しい技術リスクも生まれる。ゼロ知識証明や暗号化された残高を正しく処理する必要があり、従来の公開送金よりプロトコルが複雑になる。また、誰に閲覧権限を持たせるか、鍵を紛失した場合にどうするか、監査主体を変更できるのかといった運用設計も必要になる。

そのため、秘匿送金が導入されれば直ちにRWA資金が大量流入するとまでは言えない。現時点では仕様はドラフト段階であり、まずメインネット実装、運用テスト、機関利用、監査実務への適合という段階を確認する必要がある。

初心者向け補足

ゼロ知識証明とは、ある情報の具体的な中身を見せずに、その情報が条件を満たしていることを証明する暗号技術だ。例えば送金額そのものを公開しなくても、残高以上の金額を送っていないことなどを数学的に確認する設計に利用できる。

選択的開示とは、情報を全員へ公開するのではなく、必要な相手だけに見せる考え方だ。金融取引であれば、一般の市場参加者には残高を隠しつつ、監査人や規制対応を担当する主体には確認を認めるといった使い方が考えられる。

また、今回の機能はXRP自体の全取引を非公開にする提案ではない。対象はMPTと呼ばれるトークン規格であり、トークン化された金融商品などで利用することを想定した機能だ。XRPL全体が匿名型ブロックチェーンへ変わるという話ではない。

Web3Timesの視点

Web3Timesが今回注目するのは、XRPLにプライバシー機能が追加されるかどうかだけではない。RWA市場で「透明性が高いほど優れている」という単純な考え方が修正され始めている点だ。

個人が少額の暗号資産を送る場合と、金融機関が数千万ドル規模の担保やファンド持ち分を動かす場合では、公開情報に対する要求が異なる。機関取引では、すべてを公開するとポジションや顧客関係まで外部へ伝わり、既存市場より不利になる場合がある。

そのためRWAのオンチェーン化では、「透明性を維持するか、プライバシーを取るか」ではなく、「何を公開し、誰にだけ追加情報を開示するか」が設計の中心になる可能性がある。XLS-96は、公開台帳の検証可能性を残しながら、個別取引の金額を隠すという方向でその問題に対応しようとしている。

今後見るべきなのは提案の存在だけではない。XLS-96がメインネットで有効化されるのか、どのRWA発行体や金融機関が実際に採用するのか、監査人への情報開示をどのように運用するのかが重要になる。RWA市場の次の段階では、資産をブロックチェーンへ載せられることより、既存金融が要求する機密性と監査可能性を同時に満たせるかが普及速度を左右する。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Web3をやさしく解説するOba3

目次