Last Updated on 2026年8月19日 by oba3
米金融大手シティ(Citi)が、2026年内に機関投資家向けのビットコイン(Bitcoin)カストディサービスを開始する計画を明らかにした。新サービスは、カストディ、決済、外国為替、資金管理などを統合する新基盤「Custody+」の一部として提供され、顧客は株式や債券などの伝統資産とビットコインを同じ銀行サービスの枠組みから管理できるようになる予定だ。今回の焦点は、シティがビットコインへ投資することではない。機関投資家が暗号資産を保有するために別の専門カストディ事業者へ接続していた運用経路を、大手銀行自身の資産保管ネットワークへ取り込もうとしている点にある。
何が起きたのか?
シティは2026年8月、Custody+を通じて機関投資家向けビットコインカストディを年内に開始する方針を示した。正式な開始日はまだ公表されていないが、最初の暗号資産としてビットコインを扱う計画となっている。
Custody+は暗号資産専用の単独サービスではない。シティが大手機関投資家へ提供してきた資産保管に加え、決済、外国為替、キャッシュマネジメントなどをより統合的に扱うための基盤であり、その中へビットコイン保管を追加する。
シティのカストディ事業は100を超える市場の顧客を支援し、そのうち62市場では自社のカストディネットワークを運営している。今回の計画が実現すれば、既存顧客は株式や債券を預けている銀行との関係を維持したまま、ビットコインも同じ枠組みで管理できる。
一方、シティは以前から暗号資産カストディについて自社技術と外部事業者の双方を検討してきた。今回も秘密鍵管理などすべての技術を完全内製するのか、第三者技術やサブカストディを併用するのかについて詳細は明らかになっていない。そのため「大手銀行が暗号資産保管を完全内製化した」と現時点で断定するのは適切ではない。
なぜ重要なのか?
機関投資家がビットコインへ参入する場合、購入手段だけでなく保管体制が必要になる。秘密鍵の管理、送金承認、職務分離、監査、取引記録、規制対応などを組み合わせなければならず、個人投資家がウォレットへ保有する仕組みとは異なる。
これまでこの領域では暗号資産専門カストディアンが重要な役割を担ってきた。機関投資家は株式や債券を銀行へ保管しながら、ビットコインについては別の専門事業者と契約する構成を取ることが多く、資産管理システムや取引先審査も分かれやすかった。
Custody+がこの分断を縮めれば、暗号資産を新しい独立資産として扱うのではなく、既存ポートフォリオの一部として管理しやすくなる。残高報告、資金移動、決済などを既存の銀行業務へ近づけられることが、機関向けでは大きな意味を持つ。
市場構造への影響
暗号資産カストディ市場では、コインベース(Coinbase)など専門事業者が機関投資家やETF向けの保管を担ってきた。銀行がこの領域へ本格参入すると、競争は秘密鍵を安全に保管できるかだけではなくなる。
大手銀行の強みは、すでに証券、現金、外国為替、決済、レポーティングなどの関係を機関顧客と持っていることだ。そこへビットコインを追加できれば、顧客は暗号資産だけのために別の管理体系を構築する必要性を減らせる。
ただし、これは専門カストディアンが排除されることを意味しない。銀行が外部技術を利用したり、専門事業者を裏側のサブカストディとして活用したりするモデルも考えられる。表側では銀行が顧客関係を持ち、裏側では暗号資産専門企業が鍵管理技術を提供する分業も成立する。
そのため注目すべき変化は、専門事業者対銀行という単純な競争ではない。暗号資産保管が単独市場として存在するのか、それとも既存金融のグローバルな資産保管網へ機能として吸収されていくのかというインフラ再編だ。
資金・規制・流動性との関係
シティがカストディを提供したからといって、機関資金が自動的にビットコインへ流入するわけではない。資産運用会社や年金、保険会社などには投資方針、リスク上限、会計、規制、価格変動に関する独自の制約がある。
それでも、既存の取引銀行で保管できることは参入時の実務障壁を下げる可能性がある。新しいカストディアンの審査、契約、システム接続を一から進める必要が減れば、暗号資産を既存資産配分へ追加する際の運用コストを抑えやすくなる。
規制面でも、米国では銀行による暗号資産カストディを巡る環境が変化してきた。過去には暗号資産保管に伴う会計や監督上の負担が銀行参入の障壁になっていたが、その一部が緩和されたことで銀行がサービス開発を進めやすくなっている。
さらにカストディ先が増えれば、機関資産の保管が特定の暗号資産事業者へ集中する状態を緩和する可能性もある。銀行、専門カストディアン、サブカストディを組み合わせる複数の保管経路が形成されれば、機関投資家はリスク管理方針に応じて保管先を分散しやすくなる。
初心者向け補足
カストディとは、顧客の金融資産を安全に保管し、決済や残高管理、報告などを行うサービスだ。株式や債券では、シティのような大手銀行が世界中の機関投資家向けにこの役割を担っている。
ビットコインでは、所有権を動かす秘密鍵の管理が中心になる。秘密鍵が盗まれれば資産を移動される可能性があり、失えばアクセスできなくなるため、機関向けでは複数承認、アクセス権限、オフライン管理など厳格な仕組みが必要になる。
またCustody+への統合は、ビットコインが銀行預金になることを意味しない。資産そのものの性質は変わらず、銀行が顧客に代わって保管・管理するサービスの中へ追加されるという意味だ。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、シティがビットコインを支持したという採用ニュースではない。重要なのは、機関投資家が暗号資産を持つために必要な運用インフラが、既存銀行の資産保管網へ取り込まれ始めたことだ。
機関投資家にとって、資産を購入できることと実際に保有できることは別問題だ。投資判断が通っても、カストディ、監査、残高報告、現金管理を既存システムへ組み込めなければ大規模運用には向かない。Custody+は、その接続部分を伝統金融の業務フローへ近づける。
さらにシティはトークン化証券やデジタル資産決済にも取り組んでいる。カストディが加わることで、銀行が担当する領域は単なる秘密鍵保管から、デジタル資産の発行、保管、決済、資金管理をつなぐ方向へ広がる可能性がある。
今後見るべきなのは、シティがどれだけのビットコインを保管するかだけではない。鍵管理をどこまで自社で担うのか、ビットコイン以外へ対象資産を広げるのか、そして伝統証券と暗号資産を同じ担保・決済・報告体系でどこまで扱えるようになるのかが重要になる。機関向け暗号資産市場の次の競争は、専用サービスを増やすことより、既存銀行の巨大なカストディ網へ暗号資産をどこまで自然に埋め込めるかを巡るものになりつつある。
