Last Updated on 2026年8月19日 by oba3
暗号資産取引所クラーケン(Kraken)が、欧州経済領域の対象顧客向けに7000銘柄を超える米国上場株の取引を開始した。クラーケンの同じ基盤では600を超える暗号資産に加え、米国株などを1対1で裏付ける700超のトークン化証券xStocksも提供されている。今回の焦点は商品数の増加ではない。暗号資産取引所が通常株式のブローカー機能まで取り込み、証券会社と同じ顧客資産を預かる総合金融プラットフォームへ近づいていることだ。暗号資産と証券を別々の口座で管理してきた市場の境界が薄れ、顧客との接点そのものを巡る競争が強まっている。
何が起きたのか?
クラーケンは2026年8月18日、欧州経済領域の対象顧客向けに米国上場株式の取引を開始した。対象は7000銘柄超で、同社がすでに提供している600超の暗号資産、700超のxStocksと同じマルチアセット基盤からアクセスできる。
今回追加された7000超の銘柄は、すべてトークン化株式というわけではない。クラーケンは通常の米国上場株式と、ブロックチェーン上で提供されるxStocksを並行して扱う。通常株式サービスは、MiFID IIの認可を受けたキプロスの投資会社を通じて提供される。
xStocksは米国株やETFの経済的価値をブロックチェーン上で表現する商品で、基礎となる株式によって1対1で裏付けられる設計だ。2025年6月の開始以降、xStocks全体の累計取引額は380億ドルを超えたとクラーケンは説明している。
つまり今回の拡張は、暗号資産取引所がトークン化証券だけを追加したものではない。規制された通常株式取引とオンチェーン型の商品を同じ顧客基盤へ並べ、利用者が暗号資産、伝統株式、トークン化株式を一つのサービス内で選べる構成を作った点に特徴がある。
なぜ重要なのか?
これまで暗号資産取引所と証券会社は、扱う資産と規制体系が比較的明確に分かれていた。ビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)を買うなら暗号資産取引所、米国株を買うなら証券会社という使い分けが一般的だった。
クラーケンの戦略は、この分離を顧客側からなくそうとするものだ。一つの口座関係の中で暗号資産と株式を扱えるようになれば、利用者は資産クラスを移るたびに別会社へ資金を送る必要性を減らせる。
これは単なる利便性の改善ではない。金融プラットフォームにとって重要なのは、どの商品で最初に顧客を獲得したかより、その顧客の資産全体をどこまで管理できるかだからだ。暗号資産から入ったクラーケンが株式まで扱えば、従来型オンライン証券と資産残高を直接競うことになる。
市場構造への影響
暗号資産企業による証券市場への拡張が続けば、取引所の分類そのものが曖昧になる。暗号資産取引所、証券ブローカー、トークン化証券プラットフォームという別々の業態が、一つのアプリや口座に集約されるためだ。
クラーケンにとって通常株式の追加には、トークン化株式だけでは獲得しにくい顧客を取り込む意味もある。投資家は通常株式を保有しながら、必要に応じてxStocksや暗号資産へ資産配分を変えられる。逆に暗号資産ユーザーは、同じサービスの中で伝統株式へ移動できる。
このモデルが広がれば、証券会社側も暗号資産を無視しにくくなる。ロビンフッド(Robinhood)のように証券と暗号資産の両方を扱う企業だけでなく、既存ブローカーもデジタル資産やトークン化証券への対応を求められる可能性がある。
競争の中心は取引手数料だけではなく、現金、株式、暗号資産、トークン化証券をどの基盤でまとめて管理できるかへ移る。顧客口座そのものが、異なる金融市場を接続する入口になる。
資金・規制・流動性との関係
通常株式とxStocksが同じ画面に並んでも、法的な性質や市場の流動性は同じではない。通常の米国株では既存の証券市場、清算、カストディ、株主権の仕組みが使われる。一方、xStocksは基礎株式で裏付けられたトークン化商品であり、保有者の権利や取引時間、移転方法は商品設計によって異なる。
そのため利用者にとっては、価格が同じ銘柄へ連動しているかだけでなく、何を法的に保有しているのかを理解する必要がある。特にトークン化証券では、原株の直接株主になるのか、裏付け資産を持つ別の商品への権利を取得するのかで、議決権や企業行動への参加方法が変わる。
規制面では、クラーケンが通常株式を暗号資産サービスと同じ無認可枠で提供しているわけではない。欧州の証券サービスについてはMiFID IIの枠組みを利用しており、暗号資産とは異なる規制ライセンスを一つのブランドの中で組み合わせている。
この点が総合金融化の実態でもある。一つの金融サービスに見えても、裏側では証券、暗号資産、トークン化商品ごとに異なる法人、認可、カストディ、決済経路が接続されている。総合プラットフォームの競争力は、これらを利用者から見てどこまで滑らかにつなげられるかで決まる。
初心者向け補足
今回追加された7000超の米国株は、アップルやエヌビディアなどの通常の上場株式を取引するサービスだ。一方、xStocksは株式やETFの価値をブロックチェーン上のトークンとして表現する別の商品である。
両者は価格が同じ企業へ連動していても、法的な所有構造が完全に同じとは限らない。通常株式では証券口座を通じて株式を保有する一方、xStocksでは基礎株式で裏付けられたトークンを保有する。
また欧州経済領域とは、EU加盟国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた地域を指す。今回の通常株式サービスは、この地域の対象顧客向けに提供される。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、クラーケンが7000銘柄を追加したという商品拡充ニュースではない。重要なのは、暗号資産取引所が証券会社と同じ顧客資産を直接取りにいく構造が明確になったことだ。
以前の暗号資産取引所は、法定通貨をビットコインなどへ交換する入口として成長した。しかし顧客が株式、債券、現金管理まで別の金融会社へ移すなら、取引所が管理できる資産は限定される。通常株式を加えることで、クラーケンは暗号資産市場の中だけでなく投資家のポートフォリオ全体を管理する立場を狙える。
さらに通常株式とxStocksを並べて提供することには、証券市場の将来像を試す意味もある。現在は既存市場で決済される株式と、ブロックチェーン上で移転できるトークン化商品が別々に存在するが、利用者は同じサービス内で両者を比較できるようになる。
今後注目されるのはクラーケンがさらに何銘柄を増やすかだけではない。通常株式、トークン化株式、暗号資産の間で顧客資金がどの程度移動するのか、証券会社が暗号資産を追加するのか、暗号資産取引所がさらに証券ライセンスを取得するのかが焦点になる。暗号資産市場と証券市場の融合は、商品を同じ画面に並べる段階から、誰が顧客の金融資産全体を管理するかという業態間競争へ移っている。