CMEとカルシがワシントンで予測市場の監督を巡り衝突、イベント契約を既存デリバティブ制度へどう位置付けるかが焦点に

Last Updated on 2026年8月21日 by oba3

予測市場を「新しいデリバティブ市場」として扱うのか、それとも従来とは異なる監督基準を設けるのか。米国でその境界線を巡る議論が表面化した。CMEグループ(CME Group)とカルシ(Kalshi)の幹部が、米商品先物取引委員会(CFTC)の会合で市場操作や契約審査を巡って対立した。重要なのは企業同士の応酬そのものではない。長年デリバティブ市場を運営してきた既存取引所と、イベント契約を急速に拡大する新興市場を、同じ制度の中でどのような基準で監督するかという問題だ。

目次

何が起きたのか?

2026年8月20日、ワシントンD.C.で開かれたCFTCのイノベーション諮問委員会で、CMEグループ会長兼CEOのテリー・ダフィー(Terry Duffy)が予測市場の監督について懸念を示した。ダフィーは、一部のイベント契約には市場操作や非公開情報を利用した取引の余地があると指摘し、予測市場事業者が自己認証によって契約を上場できる仕組みにも疑問を呈した。

特に象徴的だったのが、カルシではコンピュート関連の予測契約が提供される一方、CMEが申請した類似分野の契約は審査が続いているという指摘だ。ダフィーの問題提起は「予測市場を禁止すべきだ」という単純な主張ではなく、同じCFTC監督下の市場で商品審査の速度や監督負担に差が生じていないかという公平性に向けられている。

これに対し、カルシ共同創業者兼COOのルアナ・ロペス・ララ(Luana Lopes Lara)は、市場操作の問題は予測市場だけに存在するものではなく、伝統的な取引所でも発生してきたと反論した。両者の応酬は激しくなったが、その背景には新旧の市場運営モデルをどの基準で評価するかという制度上の対立がある。

なぜ重要なのか?

CMEグループは世界最大級のデリバティブ取引所を運営する一方、イベント契約そのものには参入しており、開始以来1億件を超えるイベント契約を扱ったと報じられている。つまり今回の対立は、伝統金融と予測市場の単純な対立ではない。既存取引所も新市場へ参入する中で、「どの契約なら自己認証で上場できるのか」「どの程度の監視体制が必要なのか」という競争条件の設計が争点になっている。

CFTCのマイケル・セリグ(Michael Selig)委員長も、個人利用者の保護が不十分だという意見を認識していると説明し、指定契約市場がイベント契約を上場する際の規則や消費者保護基準について追加の見直しを示唆した。今回の諮問委員会自体が規則を直接変更するわけではないが、今後の制度設計を巡る業界側の立場が鮮明になった。

市場構造への影響

予測市場が拡大すると、取引所が扱う「金融商品」の範囲そのものが変わる。従来の先物市場では金利、株価指数、商品価格など、企業や投資家が抱える価格変動リスクを移転する役割が中心だった。イベント契約では選挙、スポーツ、政治発言、経済指標など、現実世界で起きる出来事まで取引対象にできる。

そのため、CMEとカルシの競争は取引高だけの争いではない。何をデリバティブとして認め、どこからギャンブルや公共政策上の問題として扱うのかという境界を形成する競争でもある。既存取引所と新興事業者の双方が同じ市場へ参入すれば、商品審査、監視、顧客保護、情報管理まで含めた共通基準を求める圧力は強まりやすい。

資金・規制・流動性との関係

予測市場を巡っては、連邦政府と州政府の権限争いも続いている。CFTCは連邦商品取引法に基づきイベント契約を監督する立場を強めている一方、複数の州はスポーツや選挙などを対象とする契約について州の賭博規制が適用されると主張している。ワシントン州では2026年8月、州裁判所がカルシに対し、スポーツ、選挙、政治、娯楽など幅広い契約の提供を停止するよう命じた。

ここで制度が分断されれば、同じイベント契約でも州によって利用できる商品が異なる状況が生まれる。一方、連邦レベルで統一された基準が確立すれば、取引所側は全国規模で商品を設計しやすくなる。どちらの方向へ進むかは、利用者数だけでなくマーケットメーカーの参加、取引量、価格形成の厚みにも関係してくる。

初心者向け補足

予測市場では、「ある出来事が起きるか」を契約として売買する。例えば契約価格が0.60ドルで、結果が実現すれば1ドルで決済される仕組みなら、市場参加者がその出来事の発生確率をおおむね60%程度と見ていることを価格から読み取れる。

問題は、あらゆる出来事を同じように取引対象へできるわけではないことだ。結果を左右できる人物が参加する契約や、非公開情報を持つ人物が有利になる契約では、公正な価格形成が損なわれる恐れがある。このため予測市場の成長では、契約数だけでなく「誰が取引できるか」「どの商品を認めるか」というルールが重要になる。

Web3Timesの視点

今回見るべきなのはCMEとカルシの言い争いではなく、予測市場が既存デリバティブ制度の周辺商品から、制度設計そのものを動かす市場になりつつある点だ。CMEがイベント契約へ参入しながら審査や監督基準の公平性を求めていることは、新興市場が既存取引所にとって無視できない競争領域になったことを示している。

今後の焦点は、CFTCが自己認証制度をどこまで維持するのか、市場操作リスクの高い契約をどのように区別するのか、そして州との監督権限をどこで整理するのかに移る。予測市場が金融市場の一部として定着するかどうかは、利用者の人気だけでは決まらない。イベントを取引可能な金融契約へ変換するための共通ルールを、既存取引所と新興市場が共有できるかが次の段階を左右する。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

Web3をやさしく解説するOba3

目次