Last Updated on 2026年8月9日 by oba3
米国の暗号資産市場構造法案「クラリティ法案(CLARITY Act)」を巡り、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領に暗号資産関連事業からの資産処分を求める倫理案が、キャピタルゲイン課税の繰り延べにつながる可能性が報じられた。ただし、2026年8月6日に伝えられた倫理条項は現在も未公表で、ホワイトハウスと議員の間で交渉中だ。既存の米内国歳入法1043条がトランプ氏にそのまま適用されると確認されたわけではない。今回見るべきなのは税優遇の有無を先回りして断定することではなく、利益相反対策が資産の売却時期、再投資先、法案成立の条件をどう変えるかである。
何が起きたのか?
8月6日の報道によると、議員側がトランプ氏に提示している超党派の倫理案には、大統領に暗号資産関連事業からの資産処分を求める内容が含まれ、その結果として暗号資産保有に伴うキャピタルゲイン課税を繰り延べられる可能性が指摘されている。
ただし、この時点で倫理案の全文は公開されていない。具体的にどの資産や事業持ち分が処分対象になるのか、どの制度を通じて課税繰り延べを可能にするのか、トランプ氏が既存制度上の適格者として扱われるのかは確認されていない。したがって「売却すれば1043条を利用できる」と現段階で断定することはできない。
トランプ氏は2026年6月、前年に家族の暗号資産関連事業から14億ドルを超える収入を得たと申告している。こうした事業と政策決定との利益相反を問題視する民主党議員は、強い倫理規定をクラリティ法案への支持条件として求めてきた。
さらに8月8日には、上院多数党院内総務ジョン・スーン(John Thune)氏が、夏季休会から戻る9月中旬にクラリティ法案の重要な手続き投票を行うための手続きを開始した。法案通過に必要な60票の確保を目指す動きだが、政府関係者の暗号資産事業をどう制限するかについての交渉は引き続き流動的だ。
なぜ重要なのか?
今回の論点は「政治家に暗号資産を持たせるか」という単純な保有規制ではない。利益相反解消のために資産を売却させる場合、その売却で発生する税負担をどう扱い、売却後の資金をどこへ移せるようにするかまで制度設計に含まれるからだ。
既存制度として、米内国歳入法1043条には、一定の適格者が利益相反を解消するために資産を処分し、政府倫理局などが発行する資産処分証明書の要件を満たした場合、キャピタルゲインの認識を繰り延べられる仕組みがある。これは税金を免除する制度ではなく、条件を満たす代替資産へ取得価額を引き継ぐことで課税時期を後ろへ移す制度だ。
重要なのは、この既存制度と今回交渉されている倫理案を分けて理解することだ。報道通り税繰り延べが可能になる制度設計が採用されたとしても、それが1043条をどのような形で利用するのかは、最終条文や適格性の整理を確認する必要がある。
市場構造への影響
クラリティ法案は、デジタル資産が証券か商品かを判断する枠組みや、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の監督範囲などを整理する重要法案だ。その成立過程に大統領の利益相反問題が組み込まれたことで、暗号資産規制の中身だけでなく政治倫理の設計が採決日程を左右する状況になっている。
8月8日にスーン氏が9月の手続き投票へ動いたことで、法案は完全に停止したわけではない。一方、共和党だけで通過に必要な票数を確保するのは難しく、民主党から一定の支持を得る必要がある。倫理条項の内容は、規制対象となる取引所や暗号資産企業に直接課されるルールとは別に、法案そのものを成立させるための政治的条件になっている。
このためWeb3企業が追うべきなのは、倫理問題による短期的な市場価格への影響ではない。倫理案で合意できるかどうかによって、業界が待っている連邦レベルの市場ルールがいつ確定するのかが変わり得る点である。
資金・規制・流動性との関係
1043条の仕組みでは、資産処分証明書を取得して対象資産を売却しただけで手続きが完了するわけではない。課税繰り延べを受けるには、売却日から60日以内に売却代金を制度上認められた代替資産へ再投資する必要がある。
米政府倫理局の説明では、対象となる代替資産は米国債などの米政府債務、要件を満たす分散型ミューチュアルファンド、分散型上場投資信託などに限定される。好きな株式や暗号資産へ自由に資金を移して課税を先送りできる制度ではない。
ただし、これも既存1043条の一般的な仕組みについての説明であり、トランプ氏が今回の倫理案によって同じ手続きを利用できることを示すものではない。最終案が公開されるまでは、誰が適格者になるのか、どの資産が売却対象か、既存の資産処分証明書制度とどう接続するのかを分けて確認する必要がある。
このニュースで「資金移動」を考えるなら、市場全体への流動性効果よりも、倫理規制によって個人の資産処分と再投資方法が制度的に制約される点を見る方が重要だ。利益相反を解消するルールが、保有資産の出口だけでなく売却後の置き場所まで左右し得る。
初心者向け補足
キャピタルゲインとは、資産を購入時より高い価格で売却した際に生じる利益を指す。通常は売却によって利益が確定すると課税対象になる。
税の繰り延べは、その税金をなくすことではない。1043条の条件を満たした場合、対象資産を売却して60日以内に認められた代替資産を購入することで、その時点では利益の全部または一部を認識せず、将来その代替資産を売却する時点などまで課税を先送りできる。
また、利益相反を理由に資産を売れば誰でも使える制度ではない。適格者であることに加え、原則として売却前に資産処分証明書を取得するなどの条件がある。今回のトランプ氏を巡る報道では、この既存制度との具体的な接続方法がまだ公開情報から確認できないことが重要なポイントになる。
Web3Timesの視点
今回のニュースを「トランプ氏が暗号資産を売却すれば税金を払わずに済む」と読むのは早い。現時点で確認できるのは、交渉中の倫理案が暗号資産関連事業からの資産処分を求め、その結果として税繰り延べが可能になるとの指摘が出ていることまでだ。
むしろ注目したいのは、倫理規制が資産の保有禁止だけでは完結しない点である。制度によって売却を求めるなら、課税の扱い、処分期限、再投資可能な資産まで設計する必要がある。利益相反を減らすルールが、結果として資産の「持つ・持たない」だけでなく「いつ売り、どこへ移すか」を決める。
そして8月8日にクラリティ法案の9月審議へ向けた手続きが始まったことで、この倫理交渉には時間軸も加わった。今後確認すべきなのは、最終的な倫理条項の公開、トランプ氏を含む対象者の範囲、処分対象となる資産、税繰り延べ制度との法的な接続、そして民主党議員から必要な票を確保できるかである。暗号資産規制の行方は、トークン分類や監督当局の権限だけでなく、政策を決める人物自身の資産をどう扱うかという制度設計とも結び付いている。
