Last Updated on 2026年9月24日 by oba3
暗号資産投資会社ハッシュド(Hashed)が、デジタル資産企業への融資を目的とする新たなプライベートクレジットファンドのアンカー投資家となった。ファンドは3億ドルの調達を目標とし、運用を担当するのはトロ・キャピタル・マネジメント(Thoro Capital Management)だ。特徴は、暗号資産を大量に差し入れさせる従来型の担保融資だけに依存せず、借り手企業の財務、キャッシュフロー、経営状況、財務制限条項を基に信用を評価する点にある。今回を見るうえで重要なのは3億ドルという規模そのものではない。暗号市場で蓄積された資本が、トークンへの出資や過剰担保型DeFi融資だけでなく、企業の信用力を審査して資金を貸すプライベートクレジットへ移り始めていることだ。
何が起きたのか?
新ファンドはアブダビを拠点とする投資家モハメド・ハムディ(Mohamed Hamdy)氏が設立し、同氏がマネージングパートナーを務めるトロ・キャピタルが運用する。ハッシュドは主要なアンカー投資家として参加し、ファンドの立ち上げや事業拡大を支援する。
目標規模は3億ドル。具体的なハッシュドの出資額、最終的なファンドクローズの時期、初期の借り手企業は現時点では公表されていない。そのため3億ドル全額がすでに調達されたと理解するのは正確ではない。
融資対象は主にデジタル資産市場で事業を行う機関・企業で、融資は米ドル建てとし、資金決済にはステーブルコインを利用する。つまりステーブルコインそのものへ投資するファンドではなく、企業向けドル融資の送金・決済手段としてブロックチェーンを使う設計だ。
なぜ重要なのか?
暗号資産市場の融資では、BTCやETHなど流動性の高い資産を担保として差し入れ、その価値を基準に融資額を決める方式が広く使われてきた。貸し手にとって管理しやすい反面、利益を出している企業であっても十分な暗号資産担保を持っていなければ、資金調達の選択肢が限られる。
トロ・キャピタルが採用するのは、企業そのものを審査するコベナンツ型の融資だ。財務状況、キャッシュフロー、経営体制などを確認し、借り手が融資期間中に維持すべき財務条件を契約へ組み込む。
これは暗号市場の信用供給を、資産価格中心の審査から企業信用中心の審査へ広げる試みといえる。デジタル資産企業が通常の事業会社と同じように、将来のキャッシュフローを基準に資金調達できるかを試す市場になる。
市場構造への影響
今回の仕組みで興味深いのは、伝統的なプライベートクレジットの審査方法と、暗号市場の決済インフラを組み合わせている点だ。融資判断では企業財務やコベナンツを使いながら、実際のドル建て資金移動にはステーブルコインを利用する。
このため、すべての融資契約がオンチェーン上でトークン化されると断定することはできない。現時点で確認されているのは、ドル建て融資をステーブルコインで決済し、デジタル資産企業へ信用を供給する構造である。
それでも、暗号企業が調達した資本をトークン投資へ再投入するだけでなく、信用商品として企業へ貸し出す経路が増えれば、暗号市場と非公開融資市場の境界は薄くなる。投資対象がトークンそのものから、トークン市場を支える取引所、カストディ、金融インフラなどの事業会社へ広がるためだ。
資金・規制・流動性との関係
ハッシュドは、デジタル資産企業には資金需要がある一方、銀行は規制資本やリスク管理上の理由から融資しにくく、既存の暗号レンダーは担保中心になりやすいという資金ギャップを背景に挙げている。そこで専門ファンドが銀行と暗号担保融資の間を埋める構図になる。
プライベートクレジットは一般に、銀行融資や公募債とは異なり、ファンドなどの非銀行投資家が企業へ直接資金を貸す市場だ。世界の伝統的なプライベートクレジット市場は3兆ドルを超える一方、ハッシュドによるとトークン化プライベートクレジットの累計オンチェーン融資額は140億ドルを超えている。
ただし、この140億ドルという市場規模と今回のファンドをそのまま同一視することはできない。今回の商品ではステーブルコイン決済が確認されているが、すべての債権をオンチェーンでトークン化する仕組みまでは明らかになっていない。
初心者向け補足
プライベートクレジットとは、銀行ではなく投資ファンドなどが企業へ直接融資する仕組みだ。上場市場で自由に売買される債券とは異なり、借り手ごとに金利、期間、財務条件などを個別に設計することが多い。
コベナンツは、借り手企業が守る約束事だ。例えば一定の財務比率を維持する、追加借入を制限するといった条件を契約へ入れ、企業の信用状態が悪化した場合に貸し手が早く対応できるようにする。
今回のファンドでは、暗号資産を何ドル分担保に出せるかだけではなく、その企業が継続して利益やキャッシュフローを生み出せるかを見る。この点が一般的な過剰担保型の暗号融資との大きな違いになる。
Web3Timesの視点
今回を見る際、3億ドルのファンドが大きいか小さいかだけを比較しても、資金の変化は捉えにくい。注目したいのは、暗号資本の配分先がトークン投資から企業信用へ広がっていることだ。
これまで暗号市場へ入った資本の多くは、トークン、ベンチャー投資、流動性供給、暗号資産担保ローンなどへ向かってきた。企業財務を審査するプライベートクレジットが加われば、取引所やカストディ、決済、その他の市場インフラ企業が、自社トークンを発行したり大量の暗号資産を担保に入れたりせず資金を調達する経路が増える。
今後確認したいのは、3億ドルの目標額に対して外部投資家をどこまで集められるか、実際にどの業種へ融資するか、貸出期間やコベナンツがどう設計されるか、そしてステーブルコイン決済の先に債権管理そのものまでオンチェーン化されるかだ。
暗号市場とプライベートクレジットの接続で本当に変わるのは、融資をトークン化することだけではない。暗号資産から生まれた資本を、企業のキャッシュフローと信用力を基準に再配分できる市場が形成されるかどうかである。ハッシュドの今回の投資は、その信用市場をデジタル資産業界の内部へ持ち込む動きとして位置付けられる。
