Last Updated on 2026年9月2日 by oba3
シティ(Citi)やゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)など世界の大手金融機関21社が、米ドル建てステーブルコインの提供に向けて共同事業会社を設立する。計画では2026年後半に新会社を設立し、2027年前半の市場投入を目指す。重要なのは、大手銀行がそれぞれ独自のデジタル通貨を作る動きではない。銀行、運用会社、金融グループが共通のデジタルマネーを構築し、国境を越えた決済やデジタル資産の受け渡しに利用しようとしている点にある。
何が起きたのか?
21の金融機関は2026年9月1日、ステーブルコインの発行を支える新会社を2026年後半に設立することで合意したと発表した。会社設立は所定の条件を満たすことが前提で、名称は今後公表される予定だ。
参加するのは、北米からバンク・オブ・アメリカ、キャピタル・ワン(Capital One)、シティ、フィデリティ・インベストメンツ(Fidelity Investments)、ゴールドマン・サックス、PNCフィナンシャル・サービシズ(PNC Financial Services)、スコシアバンク(Scotiabank)、TDバンク・グループ(TD Bank Group)、ウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)、ウィズダムツリー(WisdomTree)。欧州からはサンタンデール(Banco Santander)、BBVA、コメルツ銀行(Commerzbank)、クレディ・アグリコル(Crédit Agricole)、ドイツ銀行(Deutsche Bank)、ロイズ・バンキング・グループ(Lloyds Banking Group)、ラボバンク(Rabobank)、UBSが参加する。
さらに日本の三菱UFJ銀行(MUFG Bank)、中東のシリウス・インターナショナル・ホールディング(Sirius International Holding)、アフリカのスタンダード・バンク(Standard Bank)も加わる。銀行だけでなく、フィデリティやウィズダムツリーといった大手運用会社が参加している点も特徴だ。
最初の商品は米ドル建てで、2027年前半の市場投入を目標とする。その後はG7各国通貨への拡大を想定し、ユーロ建てステーブルコインを優先候補としている。用途にはホールセール、機関投資家、個人市場が挙げられ、クロスボーダー決済やデジタル資産の決済も対象になる。
なぜ重要なのか?
この計画の出発点は2025年10月にさかのぼる。当時は10行が、公開ブロックチェーン上で利用できる1対1の準備資産に裏付けられたデジタルマネーを共同で検討していた。今回、参加機関が21社まで拡大し、検討段階から新会社設立と市場投入時期を示す段階へ進んだ。
これまでドル建てステーブルコイン市場では、テザー(Tether)のUSDTやサークル(Circle)のUSDCなど、暗号資産企業を中心とする発行体が流通基盤を築いてきた。今回の特徴は、その市場へ個別銀行ではなく複数の巨大金融機関が連合体として入ろうとしていることだ。
参加企業は顧客基盤、決済ネットワーク、資産運用、規制対応、リスク管理など異なる機能を持つ。これらを一つのステーブルコインへ集約できれば、単なる新しいトークンではなく、複数金融機関が共通利用できる決済資産として位置付けられる余地が出てくる。
市場構造への影響
銀行によるデジタルマネーには、各銀行の預金をブロックチェーン上で表現するトークン化預金という選択肢もある。しかしトークン化預金は基本的に発行銀行との預金関係を基礎とするため、銀行をまたぐ利用では相互接続の設計が必要になる。
今回の構想は、一つの金融機関が自社顧客だけに提供するデジタル通貨とは異なる。複数の銀行や運用会社が共同事業会社を設け、その共通資産を決済に使う方向を目指している。成功すれば、銀行ごとに分かれていたデジタルマネーを接続する代わりに、最初から複数金融機関が共有できる決済レイヤーを作るモデルになる。
さらに参加企業は北米、欧州、アジア、中東、アフリカにまたがる。クロスボーダー決済を実際の用途として掲げていることからも、国内銀行サービスの延長だけではなく、地域をまたいで流通する金融機関共通のデジタルドルを視野に入れた構想と読める。
ただし、新会社の名称、採用するブロックチェーン、準備資産の具体的な構成、発行主体と参加金融機関の役割分担などは現時点で明らかになっていない。21社の参加表明と実際に一つの流動性圏が形成されることは分けて確認する必要がある。
資金・規制・流動性との関係
今回の計画では、米国のジーニアス法(GENIUS Act)と欧州連合の暗号資産市場規制(MiCA)への適合を、それぞれ必要な地域で目指す方針が示されている。世界規模で利用するステーブルコインを設計する以上、発行だけでなく準備資産、償還、マネーロンダリング対策、ガバナンスなどを複数地域の制度へ合わせる必要がある。
ここで金融機関連合の強みになり得るのが、既存の顧客ネットワークと資金の入口だ。銀行は企業や機関投資家との決済関係を持ち、運用会社は巨大な資産残高と投資家基盤を抱える。ステーブルコインがデジタル資産の決済に組み込まれれば、暗号資産取引所だけを起点としないドル流動性の経路が形成される可能性がある。
一方で、共同発行だから自動的に大きな流通量を得られるわけではない。利用可能なブロックチェーン、取引所やカストディとの接続、償還の容易さ、企業が実際の決済に採用するかどうかが流動性を左右する。制度対応と巨大なブランドは入口を作るが、共通通貨として定着するかは実需次第になる。
初心者向け補足
ステーブルコインとは、米ドルなどの法定通貨とほぼ同じ価値を保つよう設計されたデジタル資産だ。例えば1トークンを1ドル相当として発行し、送金や暗号資産取引、デジタル資産の決済などに利用する。
今回の計画で特徴的なのは、シティコインやゴールドマンコインのように各社が別々の通貨を作る構想ではないことだ。21社が新会社を設立し、その会社を通じて共通のステーブルコイン基盤を構築しようとしている。
なお、2025年の検討段階では1対1の準備資産と公開ブロックチェーンの利用が示されていたものの、今回発表された新会社が最終的にどのチェーンを採用し、準備資産をどのように管理するかはまだ公表されていない。2027年前半という時期も現段階では計画であり、条件によって変更される可能性がある。
Web3Timesの視点
このニュースを「大手銀行もステーブルコインへ参入した」とだけ捉えると、最も重要な変化を見落とす。見るべきなのは、誰が一枚のコインを発行するかではなく、競合関係にある金融機関が共通の決済通貨を共有しようとしている点だ。
現在のステーブルコイン市場では、発行体が準備資産を管理し、取引所、ウォレット、決済会社がそのコインを採用することでネットワークが広がってきた。今回のモデルでは、銀行、運用会社、世界各地域の金融機関そのものが最初から発行基盤と流通網の形成に参加する。
この形が成立すれば、競争はテザーやサークルと新しい銀行コインの単純なシェア争いではなくなる。民間暗号企業が先行して作ったデジタルドル市場に対し、金融機関連合が顧客基盤、規制対応、国際決済網を持ち込む構図になるためだ。
今後の焦点は発行枚数よりも、新会社のガバナンス、準備資産の管理方法、採用ブロックチェーン、各銀行からの入出金経路、そして実際にどの金融機関や企業が決済資産として利用するかにある。21社が一つのデジタルドルを共有する仕組みまで構築できれば、ステーブルコインは暗号資産市場の決済手段という位置付けから、既存金融機関が共同運営する国際的なデジタル決済基盤へ広がる可能性が出てくる。

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