Last Updated on 2026年8月29日 by oba3
米第9巡回控訴裁判所が2026年8月28日、予測市場カルシ(Kalshi)とネバダ州の訴訟で、スポーツ関連イベント契約について州のゲーミング規制を止めるよう求めたカルシ側の主張を退けた。3人の裁判官による判断は全員一致で、商品取引所法がネバダ州の規制を排除するとカルシが示せる可能性は低いと判断した。焦点は一社がネバダ州で営業できるかだけではない。CFTC登録市場で売買されるイベント契約なら全国で一律に提供できるのか、それとも商品内容によって各州のギャンブル規制が残るのかという、米予測市場の制度設計そのものが問われている。
何が起きたのか?
カルシは米商品先物取引委員会(CFTC)に登録された指定契約市場として、スポーツや選挙などの結果に連動するイベント契約を提供している。ネバダ州ゲーミング管理委員会は2025年、同社のスポーツ関連商品が無免許のスポーツ賭博に当たるとして停止を求めた。
カルシは、イベント契約は商品取引所法上の金融商品であり、CFTCが排他的な規制権限を持つため州法は適用されないと主張した。当初、ネバダ州の連邦地裁はカルシを保護する仮差止めを認めたが、その後判断を変更し、差止めを解除した。カルシはこれを不服として第9巡回控訴裁へ上訴していた。
今回、第9巡回控訴裁はスポーツ関連契約について地裁の差止め解除を維持した。裁判所は、スポーツの勝敗そのものを商品取引所法が定めるスワップとして広く読むカルシの解釈を採用せず、ネバダ州のゲーミング法が連邦法によって排除されるとの主張を認めなかった。
一方、選挙関連イベント契約については同じ結論を確定していない。地裁が十分に分析していなかったとして差し戻し、改めて判断するよう求めた。したがって今回の判決は、カルシのすべての予測市場商品を州規制対象と確定したものではない。
なぜ重要なのか?
カルシの事業モデルでは、CFTCに登録された一つの市場を通じて全米へイベント契約を提供できることが大きな利点になる。もし各州がスポーツ関連契約をギャンブルとして個別規制できるなら、州ごとに提供可能な商品やライセンス条件が異なる市場になる。
反対に、商品取引所法が州法を全面的に排除すると認められれば、予測市場は州のスポーツ賭博制度を経由せず、連邦デリバティブ市場として全国展開できる。この違いはカルシだけでなく、予測市場へ参入する取引所、証券会社、暗号資産企業の事業設計にも直結する。
市場構造への影響
今回の判断で特に重要なのは、CFTC登録市場で取引されているという事実だけでは州規制を排除できないと第9巡回控訴裁が示したことだ。裁判所は、商品取引所法がスワップや先物など一定の金融商品について連邦規制を優先させること自体は認めた。そのうえで、スポーツの勝敗に賭ける契約はその範囲に当然含まれるものではないと整理した。
これは予測市場の商品分類を重要にする。一つのプラットフォーム上でも、金利や経済指標に関する契約とスポーツの勝敗を対象とする契約では、適用される制度が異なる可能性がある。予測市場が一つの新しい金融カテゴリーとして一括処理されるのではなく、参照する出来事ごとに規制境界が引かれる方向だ。
資金・規制・流動性との関係
制度が州ごとに分かれれば、市場の流動性にも影響する。ネバダ州など一部地域の利用者をスポーツ契約から除外する必要が生じれば、同じ契約へ参加できる顧客母集団が分断される。全国一つの注文板で取引することを前提とする市場にとって、地域別アクセス制限は顧客獲得だけでなくマーケットメイクや取引量にも関わる。
さらに今回の判断は、第3巡回控訴裁判所が2026年4月にニュージャージー州の規制を差し止めた判断と方向が異なる。第3巡回控訴裁はカルシのスポーツ関連イベント契約を連邦法上のスワップとして扱う方向で判断したのに対し、第9巡回控訴裁はその広い解釈を退けた。
連邦控訴裁の間で異なる判断が生じたことで、同じ商品が地域によって異なる法的扱いを受ける可能性が高まった。今後、連邦最高裁が最終的な線引きを示す可能性もあるが、現時点で最高裁による審理が決まったわけではない。
初心者向け補足
米国では先物やスワップなどの商品デリバティブを主にCFTCが監督する。一方、スポーツ賭博は各州がライセンスや利用条件を決めてきた。カルシのイベント契約は、スポーツの結果についてイエスかノーかを売買するため、金融商品なのか賭博なのかという境界に位置する。
今回の裁判で問題になった先取りとは、連邦法がある分野を規制している場合に、同じ分野へ州法を適用できなくなる考え方だ。カルシはCFTC規制が優先すると主張し、ネバダ州はスポーツ賭博を規制する権限が州に残ると主張した。
Web3Timesの視点
今回の判決をカルシ対ネバダ州の勝敗だけで見ると、予測市場で起きている制度競争を見落とす。重要なのは、イベント契約を一つの全国金融市場として扱うのか、それともスポーツなど一部の商品を州ごとの規制へ戻すのかという市場の設計だ。
第9巡回控訴裁の考え方が広がれば、CFTC登録という一つのライセンスだけで全商品を全国展開するモデルは難しくなる。一方、第3巡回控訴裁の考え方が採用されれば、予測市場は州の賭博制度とは別の連邦デリバティブ市場として拡大しやすくなる。
今後注目すべきなのはカルシがネバダ州で再び営業できるかだけではない。第3巡回区と第9巡回区の判断の食い違いがどう解消されるのか、選挙契約を地裁がどう分類するのか、そしてCFTC登録市場と州ゲーミング規制の境界を最終的に誰が決めるのかが重要になる。予測市場の競争力は取引量や資金調達額だけでなく、全国一つの市場として流動性を集約できる制度を確保できるかによって大きく変わる。
