Last Updated on 2026年8月19日 by oba3
ロビンフッド(Robinhood)の最高経営責任者ウラジミール・テネフ(Vlad Tenev)が、米国でもトークン化株式を提供できる明確な制度経路を整えるよう規制当局へ求めた。ロビンフッドはすでに欧州で米国株などに連動するストックトークンを展開しており、テネフはトークン化によって24時間取引やリアルタイムに近い決済を実現できると主張している。重要なのは、株式をブロックチェーン上のトークンへ変えるという商品論だけではない。誰が正式な株主として記録されるのか、売買後に所有権をいつ移転するのか、証券会社や清算機関をどこまで介在させるのかという、米株式市場の取引後インフラそのものが制度設計の対象になり始めている。
何が起きたのか?
テネフは2026年8月18日、米国でもトークン化証券を提供できる規制上の道筋を整える必要があるとの考えを示した。海外でトークン化株式の提供が広がるなか、米国が制度整備で遅れれば、米国企業への投資アクセスを提供する金融インフラの一部が国外で先に形成されるとの問題意識を示している。
ロビンフッドはすでに欧州の対象顧客向けに米国株やETFへ連動するストックトークンを提供している。また独自ブロックチェーンの開発も進め、将来的に24時間売買やオンチェーンでの資産移転を行う構想を掲げている。
ただし現在のロビンフッドのストックトークンは、通常の米国株を証券口座で直接保有することと同一ではない。商品は原株の価格や配当などの経済的成果へ連動する設計で、トークン保有者が発行企業の株主名簿へ直接記録され、通常株と同じ議決権を得る仕組みではない。
一方、米国ではSECもトークン化証券を新しい取引基盤で扱うためのイノベーション免除を検討している。NYSEを傘下に持つインターコンチネンタル・エクスチェンジ(Intercontinental Exchange・ICE)も24時間取引とオンチェーン決済を想定したトークン化証券基盤を開発しており、制度整備を求めているのは暗号資産企業だけではない。
なぜ重要なのか?
米国株はすでに電子的に売買されているため、単に株式をデジタル化するだけならブロックチェーンを使う必要はない。トークン化の意味が出るのは、取引成立後の所有権移転や決済方法まで変える場合だ。
現在の米株式市場では、取引が成立した瞬間と、証券と資金の受け渡しが最終的に完了する瞬間には時間差がある。その間、証券会社や清算機関は取引相手が履行できないリスクを管理し、必要に応じて担保を求める。
トークン化によって証券とデジタルドルを同じ技術基盤上で同時に交換できれば、この時間差を短縮できる可能性がある。テネフが強調するリアルタイム決済の価値は、売買画面が24時間開くことだけではなく、取引後に残る信用リスクや担保需要まで小さくできる可能性にある。
市場構造への影響
トークン化株式には大きく異なる二つの方向がある。一つは現在海外で広がっているように、既存株式の価格や経済的利益を別のトークンで再現する方法だ。もう一つは、ブロックチェーン上の記録そのものを正式な株式所有権と結び付ける方法だ。
前者は既存株式市場を裏側で利用できるため、比較的早く24時間アクセスやウォレット利用を実現しやすい。一方、原株の株主権とトークン保有者の権利が一致しない場合があり、投資家は発行体やカストディアンとの契約構造を理解する必要がある。
後者まで進める場合は難易度が大きく上がる。株主名簿、証券会社、取引所、清算、カストディー、最良執行、価格保護といった既存の証券市場ルールをオンチェーン環境へどう移すかを決めなければならないからだ。
米国で制度整備が進めば、競争相手もロビンフッド対暗号資産取引所という構図には収まらない。NYSE、証券会社、清算機関、トークン化プラットフォームまでが、株式の注文から所有権移転までを誰のインフラで処理するかを競うことになる。
資金・規制・流動性との関係
24時間取引が可能になっても、それだけで流動性が増えるとは限らない。夜間や休日の参加者が少なければ、注文板が薄くなり、同じ株式でも従来市場より大きな価格差が生じる可能性がある。したがって制度設計では取引時間だけでなく、どの市場から流動性を集めるかが重要になる。
さらにリアルタイム決済には別の課題もある。現在の決済期間には、証券会社が資金や証券を調整する時間が含まれている。決済を即時化すれば信用リスクは減る一方、取引時点で現金と証券を完全に用意する必要性が高まり、資金管理の方法が変わる可能性がある。
そのためトークン化株式を支えるのは株式トークンだけではない。ステーブルコインやトークン化預金など、24時間動く決済資産との接続が必要になる。ICEもトークン化証券基盤でステーブルコインによる資金供給や銀行のトークン化預金との連携を想定しており、証券側と現金側の両方をデジタル化する動きが進んでいる。
規制面でも米当局は、証券をブロックチェーン上へ載せたからといって既存の証券法から外れるわけではないとの基本姿勢を維持している。したがって今後の焦点は規制をなくすことではなく、所有権記録、取引所機能、決済、カストディーをブロックチェーン上で行う場合に既存ルールをどう適用し直すかになる。
初心者向け補足
トークン化株式とは、株式に関連する価値や権利をブロックチェーン上のトークンとして表現する仕組みだ。ただし、トークン化株式という名前の商品がすべて通常の株式と同じ権利を持つわけではない。
価格連動型の商品では、アップルやエヌビディアなどの株価へ連動していても、利用者自身が発行企業の正式な株主になるとは限らない。一方、真正なトークン化株式では、トークンの移転と法的な株式所有権の移転を一致させることを目指す。
またリアルタイム決済とは、注文が成立する速度ではなく、証券と代金の受け渡しまで短時間で完了させることを指す。売買画面が24時間動くことと、所有権の決済が即時に完了することは別の機能だ。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、ロビンフッドが米国でもストックトークンを売りたいという商品拡大の話ではない。重要なのは、トークン化が証券の見た目を変えるだけでなく、株式を所有し、移転し、決済する仕組みそのものを再設計する可能性を持っていることだ。
現在の海外市場では、既存株式の経済的成果をトークンへ写すモデルが先行している。これは流通を作るには速い。一方、米国市場そのものをオンチェーン化するなら、正式な株主権、清算、価格保護、カストディーまで制度に組み込まなければならない。
この違いは今後の競争を考えるうえで大きい。海外で先行する合成的な株式トークンが利用者と流動性を獲得するのか、米国で正式な株式所有権を維持したオンチェーン市場が整備されるのかによって、トークン化株式の中心地は変わる可能性がある。
今後見るべきなのはロビンフッドが米国で何銘柄を提供できるかだけではない。SECがトークン化証券の制度経路をどう設計するのか、NYSEなど既存市場が24時間取引と即時決済をどこまで実装するのか、そして法的な株式所有権とオンチェーン上のトークン移転を一致させられるかが重要になる。トークン化株式の本当の競争は、新しい金融商品を増やすことではなく、米国株の所有権と決済をどのインフラ上で動かすかという証券市場そのものの再設計へ進み始めている。