Last Updated on 2026年9月1日 by oba3
ロシアで2026年9月1日、暗号資産の流通を包括的に規制する新たな制度の主要部分が発効した。ロシア最大の銀行ズベルバンク(Sberbank)は、制度開始後1年間に規制された取引所で扱われる暗号資産の取引高が最大4兆ルーブル、約464億ドルに達するとの見通しを示している。ただし、この数字を単純な市場拡大予測として見るだけでは今回の変化は捉えにくい。注目すべきなのは、これまで取引所外や海外サービスにも分散していた暗号資産取引を、登録された仲介業者、取引所、保管事業者、さらに銀行融資まで含む国内金融制度へ取り込もうとしている点だ。
何が起きたのか?
ロシアでは9月1日、暗号資産やデジタル権利の流通を規制する法律の主要規定が施行された。新制度では、暗号資産交換事業者、デジタル保管機関、ブローカー、資産運用会社、取引組織、清算機関などについて制度上の役割が定められ、登録された金融インフラを通じて暗号資産を扱う枠組みが整備される。
ロシア中央銀行(Bank of Russia)は一般向け取引の対象として、ビットコイン(Bitcoin)、イーサリアム(Ethereum)、テザー(Tether)のUSDTを選定している。非適格投資家はテストに合格したうえで、1つの仲介業者につき年間30万ルーブルを上限として対象暗号資産を購入できる。適格投資家についてはテストが必要となるものの、購入金額や対象暗号資産に同様の制限は設けられていない。
この制度開始を前に、ズベルバンク副会長のアナトリー・ポポフ(Anatoly Popov)は、ズベルCIBインベストメント・リサーチの試算を明らかにした。ロシア財務省のデータでは国内の暗号資産取引は1日約500億ルーブル、年間では約18兆ルーブルに達するとされる。そのうち初年度に約20%が規制取引所へ移り、取引高は3兆5000億から4兆ルーブルになるとの想定だ。
さらに同社は、規制取引所での取引高が2028年には4兆7500億から5兆2500億ルーブル、2029年には約7兆5000億ルーブルへ増えると予測している。これは実績ではなく、既存取引の一部が制度内へ移行することを前提とした予測である。
なぜ重要なのか?
4兆ルーブルという数字以上に重要なのは、ズベルバンク自身が規制市場の形成を予測するだけでなく、その市場で暗号資産関連サービスを提供する側に回ろうとしていることだ。
ズベルバンクは、ビットコインに加えてイーサリアムやUSDTを担保とする融資を扱う構想を示している。ただし、イーサリアムやUSDTを含む具体的な担保融資の拡大は中央銀行の承認などを前提としており、融資比率、金利、正式な開始時期は現時点で公表されていない。
つまり今回の制度変更では、暗号資産を合法的に売買できる場所を作るだけでなく、保管、仲介、清算、与信といった銀行業務に近い領域まで制度内へ組み込まれる余地が生まれている。
市場構造への影響
ロシアの暗号資産市場では、すでに年間約18兆ルーブル規模の取引が存在すると推計されている。一方、ズベルバンクは初年度に規制取引所へ移るのはその約20%と見ている。裏を返せば、新制度が始まっても多くの取引は当面、取引所外の交換サービスなどに残るとの想定だ。
この点は、新制度の目的を理解するうえで重要になる。ロシア政府がゼロから暗号資産市場を作るというより、すでに存在している取引の一部を登録事業者へ移し、監督可能な金融市場として再構成する動きだからだ。
中央銀行は新たにデジタル保管機関を制度化し、暗号資産やデジタル権利の記録を担わせる方針を示している。最低自己資本についても業務内容に応じて5000万から2億5000万ルーブルを求める案が示されており、従来型証券市場の保管機関に近い考え方が暗号資産へ持ち込まれている。
こうした取引所、仲介、保管の制度と大手銀行のサービスが組み合わされれば、暗号資産を扱う中心が非公式な交換経路だけではなく、既存金融機関を含む国内市場へ広がる可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
銀行が暗号資産を担保として扱えるようになれば、制度化の意味はさらに変わる。暗号資産は売買対象であるだけでなく、銀行が融資判断に利用する担保資産にもなり得るためだ。
例えば暗号資産保有者が資金を必要とする場合、従来は保有資産を売却して法定通貨を得る方法が中心だった。規制された担保融資が整えば、一定の条件下で暗号資産を保有したまま銀行から資金を調達する経路が生まれる。この場合、取引所の売買と銀行信用が同じ制度圏で結び付くことになる。
ただし中央銀行は、銀行による暗号資産関連業務が金融機関や預金者に与えるリスクを抑えるため、資本規制などの整備も進めている。暗号資産への直接・間接的なエクスポージャーについて保守的な管理を求めており、銀行による利用拡大が無制限に認められているわけではない。
またロシア国内で暗号資産を商品やサービスの通常の決済手段として使うことは引き続き禁止される。一方、居住者と非居住者の外国貿易契約などには例外が設けられている。取引、融資、国際決済で認められる用途が異なる点も、新制度を読むうえで重要になる。
初心者向け補足
今回の460億ドルという数字は、ロシア全体の暗号資産市場が新しく460億ドル生まれるという意味ではない。ズベルバンクが想定しているのは、すでに年間約18兆ルーブルあるとされる暗号資産取引のうち、一部が正式な取引所へ移るというシナリオだ。
また、規制取引所ができることと、暗号資産がロシア国内で通貨として自由に使えることは別である。新制度は暗号資産の売買や保管を金融制度へ組み込む一方、国内の商品購入などで暗号資産を通常の支払い手段として使用することは認めていない。
制度移行も一度に完了するわけではない。専門市場参加者には2027年までの移行期間が設けられているため、9月1日の発効直後からすべての取引が規制市場へ移るわけではない点には注意が必要だ。
Web3Timesの視点
今回のニュースで見るべきなのは、460億ドルという市場規模の大きさではない。より重要なのは、暗号資産を売買する場所と、保管する場所、さらに暗号資産を担保として資金を貸す銀行が同じ規制体系の中へ入り始めたことだ。
ズベルバンクの予測では、初年度に規制取引所へ移るのは既存取引の約20%にすぎない。これは制度化が完成したことを示す数字ではなく、むしろ非公式市場から制度市場への移行が段階的に進むことを示している。
今後確認したいのは、取引高そのものより、規制取引所にどれだけの利用者と資産が移るか、デジタル保管機関がどの程度普及するか、そしてズベルバンクを含む銀行が暗号資産担保融資をどこまで実際の商品として展開できるかだ。これらがそろえば、ロシアの暗号資産市場は取引所外中心の利用形態から、銀行、取引所、保管機関が役割を分担する金融市場へ変化していく余地がある。
