Last Updated on 2026年9月24日 by oba3
カナダの大手銀行6行が、カナダドル建てのトークン化預金を金融機関の間で移転できる共同基盤の開発を検討している。参加するのはロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)、TDバンク(TD Bank)、バンク・オブ・モントリオール(BMO)、スコシアバンク(Scotiabank)、カナディアン・インペリアル・バンク・オブ・コマース(CIBC)、ナショナル・バンク・オブ・カナダ(National Bank of Canada)の6行だ。
今回のポイントは、銀行がステーブルコインへ対抗する新しい暗号資産を発行するという話ではない。既存の銀行預金をデジタル形式で扱い、複数の銀行間で移転できる仕組みを検討していることにある。実現すれば、企業や金融機関が銀行預金として保有するカナダドルを、よりプログラム可能な決済基盤へ接続する道が広がる可能性がある。
何が起きたのか?
カナダの6銀行は9月22日、カナダドルを基盤とするデジタルマネーの共同開発を検討すると発表した。最初の取り組みとして位置付けられているのが、トークン化預金を利用した仕組みだ。
第1段階では、トークン化された預金をカナダ国内の金融機関の間で効率的に移転できる環境を目指す。銀行側は、決済の高速化や効率化だけでなく、プログラム可能な支払いを実現しながら、安全性、金融システムの安定性、規制当局による監督を維持する方針を示している。
参加する6行はRBC、TD、BMO、スコシアバンク、CIBC、ナショナル・バンクで、将来的には他の預金取扱金融機関も適切な段階で参加させることを想定している。さらに長期的には、今回の基盤を他のデジタル資産関連の取り組みへ接続する構想も示された。
ただし、現時点では実用ネットワークがすでに稼働しているわけではない。銀行各社が共同で開発可能性を検討している段階であり、技術仕様、利用開始時期、対象となる顧客、具体的な決済範囲などは公表されていない。
なぜ重要なのか?
デジタルマネーの議論では、ステーブルコインや中央銀行デジタル通貨が注目されやすい。しかし日常の金融システムで企業や個人が保有している資金の多くは、すでに銀行預金として存在している。
その銀行預金をトークン化し、銀行間で移転できるようにする考え方は、新しい通貨を作るのではなく、既存の預金を新しい決済技術へ接続するアプローチになる。
これは金融機関にとって大きな違いがある。ステーブルコインの場合、資金が銀行預金から外部の発行体へ移動する可能性がある。一方、トークン化預金では基本的に銀行との預金関係を維持したまま、デジタルネットワーク上で資金を扱う設計が考えられる。
そのため今回の動きは、ステーブルコイン対銀行という単純な競争よりも、銀行自身が既存の預金を次世代の決済基盤へ適応させる動きとして見る方が実態に近い。
市場構造への影響
現在の銀行間決済では、銀行口座、決済ネットワーク、清算システムなど複数の仕組みを通じて資金が移動する。トークン化預金が銀行間で共通して扱えるようになれば、この一部をよりリアルタイム性の高いデジタル基盤へ移せる可能性がある。
特に法人金融では意味が大きい。企業は複数の銀行口座を利用しながら、取引先への支払い、担保移転、証券決済、資金管理などを行っている。預金をプログラム可能な形式で扱えるようになれば、支払いと資産移転を条件付きで連動させる仕組みなども設計しやすくなる。
ここで重要なのは、一つの銀行だけが独自のデジタル預金を作るのではなく、複数行が共通して利用できる仕組みを検討している点だ。個別銀行ごとに異なるネットワークが作られれば、銀行間で再び接続作業が必要になる。共同基盤であれば、最初から相互運用を前提とした設計へ進める余地がある。
ただし、今回の発表では具体的な台帳技術やブロックチェーンの採用方法までは明らかにされていない。そのため、すべての銀行預金が直ちにオンチェーン化されると見るのは早い。現段階では、銀行間でトークン化預金を移転する共通インフラを検討していることが確認できる範囲となる。
資金・規制・流動性との関係
トークン化預金が広がった場合、金融システムで最も大きな意味を持つのは、預金の位置付けを維持したままデジタル資産市場へ接続できる可能性があることだ。
たとえばトークン化された証券や債券、現実資産をデジタルネットワーク上で取引する場合、決済側にも同じ速度で移転できる現金に近い資産が必要になる。資産だけがデジタル化されても、支払いが従来の銀行システムに戻れば、取引全体を一つの基盤で完結させることは難しい。
銀行預金をトークン化できれば、この決済側を銀行マネーのままデジタル化できる。将来的にトークン化証券やその他のデジタル資産と接続されれば、資産と資金を同時に移転する決済構造へ発展する余地がある。
一方で、銀行預金には預金規制、自己資本規制、本人確認、マネーロンダリング対策など既存の金融ルールが適用される。銀行側が安全性と規制監督を維持する方針を強調しているのは、技術だけを新しくしながら、銀行預金としての制度的な枠組みを残すことが前提だからだ。
初心者向け補足
トークン化預金とは、銀行口座にある預金をデジタルネットワーク上で移転できる形式として表現する仕組みだ。利用者から見ればカナダドル建ての銀行預金である点は変わらず、その移転方法や管理方法に新しい技術を使うイメージに近い。
ステーブルコインとの違いは発行主体にある。一般的なステーブルコインは民間の発行企業などが準備資産を保有し、それを裏付けとしてトークンを発行する。一方、トークン化預金は銀行に対する預金債権をデジタル形式で扱う。
中央銀行デジタル通貨とも異なる。中央銀行デジタル通貨は中央銀行の負債だが、トークン化預金は民間銀行の預金である。見た目が似たデジタルマネーでも、誰に対する債権なのかによって金融システム上の位置付けは大きく変わる。
今回のカナダの取り組みはまだ検討段階であり、一般利用者がすぐに新しいデジタルドルを使えるようになるわけではない。第1段階では、金融機関の間でトークン化預金を効率的に移転する仕組みが中心となっている。
Web3Timesの視点
今回のニュースで重要なのは、「銀行もステーブルコインを始める」と解釈しないことだ。6銀行が検討しているのは、銀行の外側に新しい通貨を作るのではなく、銀行預金そのものをデジタル決済基盤へ載せる方法である。
これはRWAの発展を考えるうえでも重要になる。債券、不動産、ファンド、株式などの資産がトークン化されても、その取引を完結させるには決済に使える資金が必要だ。ここでステーブルコインだけでなく、トークン化預金や中央銀行マネーが並ぶことで、デジタル資産市場の決済手段にも複数の選択肢が生まれる。
さらに注目したいのは、6銀行が個別ではなく共同で取り組んでいることだ。金融インフラでは、一社だけが高度な技術を持つことより、多くの参加者が同じ仕組みを使えることの方が価値を持つ場合がある。送金相手の銀行ごとに異なる仕組みを使う必要がなければ、法人決済や資産決済へ広げやすくなる。
今後の焦点は、トークン化預金がステーブルコインに勝つかどうかではない。銀行預金、民間ステーブルコイン、中央銀行マネーという異なる種類のデジタル資金が、どの市場で使われ、どのように相互接続されるかにある。
カナダの6銀行が共同基盤を実用段階まで進めれば、銀行預金は単に口座残高として保管されるものから、トークン化された資産や企業間決済と直接接続できる資金へ役割を広げる可能性がある。RWA市場の次の競争は、資産をトークン化する技術だけでなく、その反対側で決済に使われるデジタルマネーを誰が提供するかという領域へ移りつつある。
