Last Updated on 2026年7月23日 by oba3
米証券取引委員会(SEC)のヘスター・ピアース(Hester Peirce)委員は2026年7月22日、暗号資産を運用するボールトやオンチェーン融資について、設計や運営実態によっては米連邦証券法の対象になり得るとの見解を示した。
今回の発言は、分散型金融(DeFi)と呼ばれるサービスを一律に証券と判断したものではない。ピアース委員が重視したのは、利用者の資産を誰がどの程度の裁量で運用し、収益が誰の経営的・管理的な努力に依存しているかという個別の構造である。名称やスマートコントラクトの使用だけでは、規制対象かどうかは決まらない。
何が起きたのか?
ピアース委員は、暗号資産ボールトと融資戦略に関する声明を公表した。ボールトとは、利用者から預かった暗号資産をスマートコントラクトでステーキング、融資、その他の収益機会へ配分し、利回りの獲得を目指す仕組みを指す。
ただし、すべてのボールトが同じ構造を持つわけではない。変更できないプログラムだけで資産配分が決まるものもあれば、運営者やキュレーターと呼ばれる管理主体が、投資先、資産配分、戦略変更を判断するものもある。
ピアース委員は、収益を生む活動の選定、資産の再配分、意思決定者の選任などに関与する主体は、自らの活動が証券法に触れるかを検討する必要があると説明した。利用者が資金を共同事業へ投入し、運営者の経営的または管理的な努力による利益を期待する構造であれば、投資契約に当たる可能性があるためだ。
オンチェーン融資についても同様に、金利の設定、対応資産の選定、担保価値に対する融資比率、清算基準などを誰が決めるかが判断材料になる。融資契約は、参加者の目的、販売方法、契約条件などによって、証券に該当する手形として扱われる可能性もあるとした。
一方、今回の声明はSEC全体による新規則や法的判断ではなく、ピアース委員個人の見解である。特定のボールトや融資プロトコルを違法と認定したものでもない。実際の適用は、個別サービスの事実関係と運営方法に基づいて判断される。
なぜ重要なのか?
DeFiでは、スマートコントラクトが自動で処理を実行することから、中央管理者が存在しないと説明されることがある。しかし、資産配分やリスク設定を人や企業が変更できる場合、利用者はコードだけでなく、その管理主体の判断へ依存している。
例えば、運営者が市場環境を見て融資先を入れ替え、利回りの高い戦略へ資金を移すボールトは、単なる自動保管サービスより、資産運用商品に近い性質を持つ。運営者の分析力や意思決定が収益を左右するほど、投資契約や投資助言業務との関係が強くなる。
反対に、利用者が自ら条件を選び、変更不能なコードが決められた処理だけを行う場合は、第三者の経営努力への依存が小さくなる可能性がある。ただし、自動化されていることだけで証券法の適用外になるわけではなく、契約全体の経済的な実態が確認される。
市場構造への影響
今回の見解は、DeFi市場の競争軸を利回りや預かり資産額だけでなく、運用裁量の所在へ広げる。利用者から見ると同じボールト商品でも、完全に自動化された仕組みと、専門運用者が戦略を変更する仕組みでは、規制上の位置付けが異なる可能性がある。
運用者の裁量が大きいサービスでは、投資会社、投資顧問、証券募集などに関する規制が論点になり得る。ボールトが証券を保有したり、証券への投資へ資産を配分したりする場合には、投資会社法上のファンドに近い扱いを受ける可能性もある。
ピアース委員は、ボールトの構造によって、固定された資産を保有する単位型投資信託、運用者が資産を選ぶ管理型ファンド、顧客ごとに運用する個別管理口座に似た機能を持ち得ると整理した。つまり、オンチェーンで動くことより、誰のために誰が資産を管理しているかが重要になる。
この考え方が規制実務へ反映されれば、DeFi事業者は分散型という表示だけでなく、管理権限、手数料、戦略変更、利益相反を開示する必要性が高まる。コード開発者、フロントエンド運営者、ボールト管理者、リスクキュレーターの役割を分ける設計も求められる可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
ボールトは、複数の融資市場やステーキング先へ資金をまとめて配分することで、利用者が個別に運用する負担を減らす。一方、少数の運用者が大規模な資産を管理すれば、その判断がオンチェーン市場の資金移動へ大きな影響を与える。
運用者が特定の融資市場から資産を引き揚げれば、その市場では貸出可能な資金が減り、金利や担保条件が急変する場合がある。複数のボールトが似た戦略を採用していれば、同時の資金移動によって清算が増え、流動性が急速に低下する可能性もある。
証券法が適用される場合、登録、情報開示、資産管理、利益相反管理などが必要になる可能性がある。運営費用は増えるが、誰が投資判断を行い、どのリスクを取っているかが明確になれば、利用者が商品を比較しやすくなる面もある。
ただし、声明はすべてのオンチェーン融資へ登録を求めるものではない。融資資産が暗号資産だから証券法が適用されるのではなく、融資契約の販売方法、参加者の目的、管理主体の役割などが判断材料になる。資産の種類だけで結論を出さない点が重要である。
初心者向け補足
DeFiボールトとは、利用者が暗号資産を預けると、プログラムや運用者が複数の収益機会へ自動的に配分する仕組みである。利用者は個別の融資先やステーキング先を毎回選ばずに運用できる。
投資契約とは、資金を共同事業へ投じ、主に他者の努力による利益を期待する仕組みを指す。トークンそのものが証券でなくても、その販売方法や運用サービスとの組み合わせが投資契約として扱われる場合がある。
投資会社は、投資家から集めた資金をまとめて証券などへ投資する事業体である。一般的な投資信託やファンドが代表例で、資産構成、運用方法、情報開示などに規制が設けられている。
オンチェーンで動くサービスであっても、管理者が金利や担保条件を変更できる場合には、実質的な運用主体が存在する。分散型という名前が付いているかではなく、実際の権限と利益の発生方法を見る必要がある。
Web3Timesの視点
今回の声明で重要なのは、SECがDeFiという分野全体を証券規制へ取り込むと宣言したことではない。ピアース委員はむしろ、すべての暗号資産活動が証券法の対象になるわけではないとしたうえで、規制範囲に入る構造まで無理に対象外と解釈すべきではないと警告した。
評価の中心になるのは、運用者が利用者資産をどこへ配分できるか、利回り戦略を変更できるか、金利や担保条件を決定できるかである。こうした裁量が大きく、利用者の収益が管理者の判断へ依存するほど、従来の資産運用商品との違いは小さくなる。
今後、事業者に求められるのは、単にスマートコントラクトを公開することではない。管理鍵の保有者、戦略変更の権限、手数料の受取人、損失時の責任、利用者が資金を引き出せる条件まで示す必要がある。コードが公開されていても、意思決定の権限が見えなければ、実際の分散性は判断できない。
また、証券法の適用可能性は規制強化だけを意味しない。ピアース委員は、市場参加者との対話を通じ、既存規則がボールトやオンチェーン融資に適合しない場合には修正を検討する余地も示した。焦点はDeFiを既存制度へそのまま押し込むことではなく、投資家保護を維持しながら新しい運用形態を扱える制度を作れるかにある。
DeFiサービスの将来を分けるのは、分散型という名称や高い表示利回りではない。利用者が誰の判断へ資金を預け、誰の努力によって収益を期待しているのかという経済的な実態である。今回の発言は、オンチェーン金融の規制議論がトークン分類から、運用権限とファンド機能の分析へ移りつつあることを示している。
