Last Updated on 2026年7月25日 by oba3
米国の暗号資産市場構造法案であるCLARITY法案について、予測市場が示す2026年中の法制化確率が30%台まで低下した。これは議会による公式見通しではなく、参加者の売買から形成された市場価格である。法案の基本的な制度設計に一定の支持があっても、政治家と暗号資産事業の利益相反を制限する倫理条項、上院で通常必要となる60票、夏季休会までの残り日程が成立経路を狭めている。政策内容だけでなく、倫理問題への対応が暗号資産市場の監督区分を整えるための実質的な可決条件になっている。
何が起きたのか?
予測市場ポリマーケット(Polymarket)では、CLARITY法案が2026年12月31日までに法律として成立する確率が、7月17日時点で約32%まで低下した。市場開始後には80%を超える場面もあったが、上院審議の遅れと超党派合意への不透明感を受けて水準を切り下げた。
ただし、30%台という数字は議会、政府、規制当局が算出した成立見通しではない。市場参加者が法案の行方を予測して持分を売買した結果であり、新しい草案や議員発言によって短時間で変動する。実際、共和党議員とホワイトハウスが倫理条項を巡る妥協案をまとめたとの報道後には、確率が一時的に40%台へ戻る動きもみられた。
法案の基礎となるのは、下院を通過したH.R.3633のデジタル資産市場明確化法案2025年版(Digital Asset Market Clarity Act of 2025)である。上院銀行委員会は2026年5月14日、修正文案を15対9で前進させたが、本会議で採決できる最終文案と必要な支持票は固まっていない。
上院側の作業草案では、米証券取引委員会と米商品先物取引委員会の権限配分に加え、マネーロンダリング対策と顧客確認、ステーブルコイン報酬、分散型金融の判定基準、政治家によるデジタル資産事業への関与などが扱われている。特に倫理条項は、民主党議員から支持を得るための主要条件となっている。
なぜ重要なのか?
CLARITY法案は、暗号資産全般を一律に証券または商品へ分類するものではない。トークンの発行方法、資金調達との関係、取引段階、ネットワークの分散性などに応じて、証券性を持つデジタル資産や募集行為を米証券取引委員会が監督し、一定のデジタル商品市場を米商品先物取引委員会が監督する枠組みを整える。
米国にはすでに州の送金業免許、金融犯罪取締ネットワークへの登録、証券・先物事業者の登録、銀行監督などが存在する。法案が成立していないからといって、暗号資産事業が無規制というわけではない。現在不足しているのは、現物暗号資産市場を横断する連邦レベルの分類基準と登録制度の一貫性である。
今回重要なのは、こうした制度内容への合意だけでは法案を通せない点だ。上院で討論を終えて採決へ進むには通常60票が必要となる。多数党の共和党だけでは安定して到達できないため、民主党から一定数の支持を得なければならない。
その支持を左右しているのが倫理条項である。民主党側は、大統領や議員などの公職者が暗号資産を発行、支援、保有することで、政策決定と私的利益が結び付く危険を問題視している。共和党側とホワイトハウスが受け入れ可能な制限を示しても、対象者、禁止行為、適用期間、執行主体が不十分だと判断されれば、必要な票には届かない。
市場構造への影響
倫理条項は暗号資産の分類や取引所登録を直接定める規定ではない。それでも、同条項で合意できなければ、市場構造法案全体が本会議を通過できない可能性がある。暗号資産市場の監督制度が、トークンの技術的性質だけでなく、政治家の利益相反をどう制限するかという政治倫理の問題に結び付いている。
法案の遅れは、取引所、ブローカー、カストディー企業、銀行の準備にも影響する。企業は既存の規制へ対応しながら、将来どの当局へ登録し、どの資産分類や顧客保護基準を採用するかを見極めなければならない。法律が成立しても、その後には当局による規則作成、意見募集、登録制度の整備が続くため、立法の遅れは運用開始時期へ連鎖する。
上院では銀行委員会だけでなく、商品市場を所管する農業委員会との調整も必要になる。証券分野と商品分野の文案を統合し、倫理条項などの政治的争点を処理し、本会議時間を確保する工程が残されている。夏季休会後は中間選挙、予算、外交や安全保障などの案件と審議時間を競うことになる。
さらに、上院が下院通過案を修正して可決した場合、直ちに法律となるわけではない。下院が上院案へ同意するか、両院が同一文面を作るための調整を行い、その後に大統領署名を得る必要がある。予測市場の成立確率が低下している背景には、上院採決だけでなく、残る立法工程全体の時間不足もある。
資金・規制・流動性との関係
市場構造法の遅延が、暗号資産への資金流入を直ちに止めるわけではない。既存の現物ETF、州免許を持つ交換所、登録済みの金融機関は現行制度の下で事業を続けられる。ただし、現物市場全体の共通ルールが固まらなければ、新しい取引サービスやカストディー基盤への投資判断は慎重になりやすい。
規制の不統一へ対応するには、複数の免許、専門法務、当局との協議、将来のシステム変更が必要になる。資本力のある大企業は負担を吸収しやすいが、小規模事業者は米国参入や商品追加を延期する可能性がある。一方、法案成立後の登録要件が重ければ、その制度自体が大手優位を強める場合もあり、成立だけで競争環境が改善するとは限らない。
倫理条項を巡る交渉には、暗号資産業界の信頼性も関係する。公職者の利益相反を十分に制限しないまま市場制度だけを整えれば、規制が特定の企業や政治家の資産価値を高めるために利用されるとの批判が残る。反対に、禁止範囲を広げすぎれば、既存資産の保有や家族の事業までどこまで規制するかという別の問題が生じる。
今後確認すべきなのは、予測市場の数字そのものより、倫理条項の最終文面、民主党から得られる支持数、本会議手続きの開始時期、農業委員会との統合状況である。これらが進まなければ、確率が一時的に上昇しても、年内法制化への経路が開いたとは判断しにくい。
初心者向け補足
予測市場の30%という数字は、法案が成立する確率を科学的に計算したものではない。参加者が成立すると考える持分と、成立しないと考える持分を売買し、その価格を確率のように表示している。新しい報道や議員発言が出れば価格はすぐに変わる。
また、上院通過と法律成立は別の段階である。上院が法案を可決しても、下院と文面が異なれば再調整が必要になる。上下両院が同じ文面を可決し、大統領が署名して初めて法律となる。
倫理条項とは、暗号資産の取引方法を定める規定ではなく、公職者が政策上の立場を利用して自分や家族の利益を増やすことを防ぐための規則である。今回は、この条項への合意が市場構造法案全体への賛成票を左右している。
Web3Timesの視点
CLARITY法案の成立確率低下を、暗号資産規制への支持が失われたと読むのは早い。法案の中心である米証券取引委員会と米商品先物取引委員会の役割整理には一定の支持がある一方、誰がその制度から利益を得るのかという政治倫理の問題が残っている。
ここで見るべきなのは、30%という市場価格より、倫理条項が超党派合意の入口になっている構図である。市場区分、取引所登録、顧客資産保護について合意できても、公職者の暗号資産関与をどこまで制限するかで60票に届かなければ、制度全体は前へ進まない。
予測市場は政治日程への期待を素早く反映するが、立法の実態を保証しない。確率が上がった場合でも、最終文案の公開、民主党議員の支持表明、本会議での討論終結、上院可決、下院との文面統一という工程を確認する必要がある。
米国の暗号資産市場構造を決めるのは、分類基準の技術的な完成度だけではない。倫理条項への信頼、超党派票、委員会間調整、限られた本会議時間が一つの可決条件として結び付いている。CLARITY法案は現在、政策案の優劣を競う段階から、政治的な正当性を確保しながら成立経路を残せるかを問われる段階にある。
