Last Updated on 2026年8月14日 by oba3
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、日本国債を使ったレポ取引をブロックチェーン上で処理する実証実験に乗り出す。対象は国債そのものを新しいトークンとして発行する取り組みだけではない。既存の振替国債としての法的性質を維持しながら、国債とデジタルマネーを同時決済し、将来的にはレポ取引の一連の業務まで自動化する構想だ。国債市場を見るうえで重要なのはトークン発行額ではなく、担保として使われる国債をどれだけ短時間で受け渡し、同じ資産を次の資金調達へ回せるかという決済時間の変化にある。
何が起きたのか?
MUFG、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ銀行は2026年8月13日、デジタル・アセット(Digital Asset)とプログマ(Progmat)と共同で、日本国債レポ取引をオンチェーン化する実証を開始すると発表した。基盤には機関金融向けブロックチェーンのカントン・ネットワーク(Canton Network)を利用する。
実証は大きく二つに分かれる。一つ目は、日本国債とデジタルマネーをブロックチェーン上で同時に交換するDvP決済だ。日本国債については現在の振替国債としての法的性質を維持し、口座管理機関が保有する振替口座簿とブロックチェーンを連動させる。支払い側ではトークン化預金やステーブルコインの利用も検討する。
二つ目は、セキュアード・ファイナンス(Secured Finance)が提供するレンディングプロトコルを使い、レポ取引の一連の処理をスマートコントラクトで自動化する実証だ。MUFGは、リアルタイムの日中レポ取引や決済可能時間の拡大によって、資金調達と資本の効率改善を検証する。
なお、今回の国内実証で24時間365日の決済がすでに実現したわけではない。MUFGは海外でリアルタイムかつ24時間365日型の決済が進んでいることを背景として挙げているが、今回確認される実証の目的はリアルタイムの日中レポと決済時間帯の拡大だ。実証は金融庁が進める決済高度化関連のパイロットプロジェクトの一環として行われる。
なぜ重要なのか?
日本国債は投資対象であると同時に、金融市場で資金を借りる際の主要な担保でもある。レポ取引では、金融機関が国債を相手へ渡し、その見返りに短期資金を調達する。したがって国債をどれだけ速く受け渡せるかは、市場参加者が資金を動かせる速度そのものに関係する。
従来の決済では、取引成立、照合、国債の移転、資金決済など複数の工程が別々のシステムで処理される。ブロックチェーン上で国債側と資金側を同期し、DvPで同時に処理できれば、一方だけを渡してもう一方を受け取れない決済リスクを抑えながら処理時間を短縮できる。
そのため今回の実証は、RWAを新しく発行することよりも、すでに巨大な市場を持つ日本国債を既存の法制度のままオンチェーン決済へ接続しようとしている点に意味がある。
市場構造への影響
決済時間が短くなると、同じ国債を担保として利用できる回数やタイミングが変わる。例えば朝に資金調達へ使った国債が短時間で返却されれば、その日のうちに別の取引へ再利用できる余地が生まれる。これは担保回転率の改善につながる。
金融機関にとって、担保は保有しているだけでは収益を生まない。必要な場所へ必要な時間に移動できることが重要だ。国債の受け渡しが長時間拘束されれば、その間は別の資金調達に使えない。リアルタイムに近い決済が実現すれば、同じ担保量でもより柔軟に資金を確保できる可能性がある。
さらに今回の設計では、日本国債を無理に新しいトークンへ置き換えるのではなく、既存の振替口座簿とブロックチェーンを同期させる。これは伝統金融を全面的に置き換えるのではなく、既存制度とオンチェーン基盤を接続する現実的な移行経路として注目される。
資金・規制・流動性との関係
レポ市場は金融機関の日々の資金調達を支えるため、決済効率は市場全体の資金利用効率へ波及する。決済待ちの時間が短くなれば、担保や現金を長時間拘束する必要が減り、資金を別の取引へ振り向けやすくなる。
今回、支払い側としてトークン化預金やステーブルコインが検討されていることも重要だ。国債側だけをオンチェーン化しても、資金側が従来の決済時間に縛られれば同時決済の利点は限定される。国債とデジタルマネーを同じ時間軸で動かせるかが、実用化の鍵になる。
一方、日本国債は既存の法制度と市場インフラの中心にあるため、技術だけで実用化できるわけではない。MUFGは関係当局との対話を進める方針を示しており、振替制度、デジタルマネー、決済の最終性などを既存制度とどう整合させるかが今後の課題になる。
初心者向け補足
レポ取引とは、国債などの証券を担保として差し入れ、一定期間だけ資金を調達する取引だ。銀行や証券会社などが短期的な資金需要を調整するために利用しており、国債市場と短期金融市場をつなぐ重要な仕組みとなっている。
DvPはデリバリー・バーサス・ペイメント(Delivery versus Payment)の略で、証券の受け渡しと代金の支払いを連動させる仕組みを指す。国債だけ渡したのに現金を受け取れない、といった事態を避けるために使われる。
今回の実証を「日本国債をすべてトークン化する計画」と理解する必要はない。むしろ既存の国債制度を維持したまま、ブロックチェーンを決済や記録の一部へ組み込み、取引時間を短縮できるかを試す取り組みだ。
Web3Timesの視点
Web3Timesが注目するのは、日本国債というRWAがブロックチェーンへ載ること自体ではない。重要なのは、国債が担保として拘束される時間をどこまで短くできるかだ。
金融市場では同じ100億円の国債でも、一日に一度しか動かせない場合と、短時間で決済して複数の資金調達へ利用できる場合では経済的な価値が異なる。オンチェーン化によって変わるのは資産の見た目ではなく、その資産が市場の中を移動できる速度である。
この実証が実用化へ進めば、RWAの評価軸も発行残高だけでは測れなくなる。どれだけ速く担保を移転できるか、資金と証券を同時に決済できるか、レポ契約から返済までを自動化できるかが重要になる。
今後見るべきなのは実証でトークン化された国債の金額だけではない。実際の決済時間がどこまで短縮されるのか、トークン化預金やステーブルコインのどちらが資金側に採用されるのか、そして国内外の金融機関が同じ基盤へ参加するのかが焦点となる。日本のRWA市場が次に変える可能性があるのは資産の発行方法ではなく、国債担保が金融システムの中を動く速度そのものだ。
