イリノイ州の0.2%デジタル資産税を業界団体が相次ぎ提訴、州単位の取引課税が全米市場を分断する制度リスクが焦点に

Last Updated on 2026年8月23日 by oba3

米イリノイ州が2027年1月1日から導入するデジタル資産税を巡り、暗号資産業界団体による法廷闘争が広がっている。ブロックチェーン協会(Blockchain Association)とクリプト・カウンシル・フォー・イノベーション(Crypto Council for Innovation)は2026年8月21日、州のデジタル資産税法は米国憲法や州憲法などに反するとして、サンガモン郡巡回裁判所へ提訴した。税率は0.2%だが、今回の論点は数字の大きさだけではない。暗号資産の交換、移転、保管という金融サービスに州独自の課税を導入した場合、全米で展開する取引所やカストディー事業者が州ごとに異なる顧客条件を設ける可能性がある。

目次

何が起きたのか?

イリノイ州のデジタル資産税法は、2027年1月1日から州内の顧客が受ける一定のデジタル資産関連サービスに対し、対象資産価値の0.2%を課税する。対象となるデジタル資産事業活動には、暗号資産と法定通貨または別の暗号資産との交換、顧客資産の移転、顧客のための保管や管理が含まれる。

特徴的なのは、売却益が発生した場合だけを対象とする所得課税ではない点だ。同じ利用者が自分の別口座へ資産を移す取引も、法律上の移転に含まれ得るほか、カストディーによる保管も課税対象の事業活動として定義されている。税は対象サービスを提供するデジタル資産ブローカーが顧客から徴収し、州へ納付する仕組みとなる。

これに対し、ブロックチェーン協会とクリプト・カウンシル・フォー・イノベーションは、暗号資産だけを利用技術に基づいて異なる扱いにしているとして訴訟を起こした。両団体は休眠通商条項、連邦インターネット税自由法、州および連邦のデュープロセス規定などへの違反を主張している。7月にはザ・デジタル・チェンバー(The Digital Chamber)も別途提訴しており、今回が業界側からの2件目の大きな法的挑戦となった。

なぜ重要なのか?

業界側の主張で重要なのは、株式や債券などと経済的に似た取引でも、ブロックチェーン上で処理される場合だけ追加税が発生し得るという点だ。例えば同じ資産価値の移転でも、従来型金融インフラを使う場合とデジタル資産として処理する場合で税負担が異なれば、サービス提供方法そのものが課税によって選別される。

ただし現時点で、この税が違憲または違法だと裁判所が判断したわけではない。業界団体が差し止めを求めている段階であり、イリノイ州側の法的権限や課税方法がどこまで認められるかは今後の訴訟で争われる。

市場構造への影響

米国の暗号資産市場はインターネット上で全国の利用者へ同じサービスを提供しやすい一方、実際の事業者は州ごとのライセンス、消費者保護、送金規制などにも対応している。ここへ取引や保管を対象とする独自税まで加われば、州境がデジタル資産サービスの経済条件にも影響するようになる。

取引所やカストディー企業にとっては、利用者がどの州にいるかを判定し、対象取引を識別し、資産価値を計算して税を徴収する仕組みが必要になる。複数州が異なる税率や課税対象を導入すれば、全国共通だったサービス画面の裏側で、州ごとに異なる料金、対応機能、利用制限を管理する必要が出てくる。

資金・規制・流動性との関係

0.2%という税率だけを見れば小さく感じられるが、取引回数が多い事業では累積コストが重要になる。交換だけでなく移転や保管まで別の課税機会として扱われる場合、資産を頻繁に動かす利用者やマーケットメーカー、カストディーを多用する機関投資家ほど影響を受けやすい。

事業者がコストを吸収せず顧客へ転嫁すれば、州によって実質的な取引コストが変わる。逆に採算が合わないサービスを一部地域で停止すれば、顧客が利用できる取引所や保管サービスの選択肢そのものが州ごとに分かれる可能性がある。これは単なる税収問題ではなく、資金がどの取引所や地域へ集まるかという流動性配置にも関係する。

初心者向け補足

今回の0.2%税は、ビットコインなどを売って利益が出た場合に支払う一般的なキャピタルゲイン課税とは性質が異なる。法律上は、デジタル資産に関する交換、移転、保管というサービスを受けること自体を対象とする州税として設計されている。

そのため資産価格が上昇したか下落したかだけでは税負担を判断できない。同じウォレット所有者の口座間移動など、連邦所得税では通常売却と扱われない操作でも、州法上のデジタル資産事業活動に該当するかが別途問題になる。

Web3Timesの視点

今回見るべきなのは、イリノイ州の0.2%という数字より、州が暗号資産の取引インフラそのものへ独自課税を始めたことだ。米国で各州が同様の制度を別々に導入すれば、デジタル資産市場は技術的には一つのネットワークで動いていても、利用者が住む場所によって経済条件が変わる。

業界団体が休眠通商条項を持ち出しているのも、この州境を越える市場への影響が背景にある。争点はイリノイ州が税を取れるかだけではなく、一つの州が全国規模のデジタル資産サービスへどこまで独自条件を課せるかだ。

今後注目すべきなのは、裁判所が税そのものを認めるかだけではない。他州が類似制度を検討するのか、事業者がイリノイ州向けの料金やサービスを変更するのか、連邦レベルで統一的な扱いを求める動きにつながるのかが重要になる。州税が点在し始めれば、暗号資産市場の競争条件はチェーンや取引所の性能だけでなく、利用者の所在地によっても左右されることになる。

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