Last Updated on 2026年8月18日 by oba3
米金融大手シティグループ(Citigroup)の最高経営責任者ジェーン・フレイザー(Jane Fraser)が、暗号資産市場構造法案CLARITY Actの成立を支持する一方、ステーブルコイン保有者への報酬制度については修正が必要との考えを示した。フレイザーが懸念するのは暗号資産の価格変動ではなく、報酬付きステーブルコインが銀行預金と競合し、特に地域銀行から資金を吸い上げれば融資余力まで低下する可能性だ。現在の上院案では、単にステーブルコインを保有するだけで銀行預金の利息に近い報酬を支払うことを制限しつつ、決済や取引活動に関連するインセンティブを認める妥協案が組み込まれている。CLARITY Actの争点は暗号資産をSECとCFTCのどちらが監督するかだけでなく、銀行預金とステーブルコインをどの条件で競争させるかというドル流通の設計へ広がっている。
何が起きたのか?
シティグループCEOのフレイザーは2026年8月13日のインタビューで、CLARITY Actについて改善を求める姿勢を維持しながらも、適切な法案が成立することは金融システム全体にとって望ましいとの考えを示した。
同時に強く懸念を示したのがステーブルコイン報酬だ。フレイザーは、報酬制度によって銀行から預金が流出すれば、特に地域金融機関の融資能力や信用供給へ悪影響が及ぶ可能性を指摘した。大手銀行だけでは十分にサービスを提供できない地域で、地域銀行の預金が企業融資や家計向け信用の原資になっていることを問題視している。
上院で進む現在の妥協案では、デジタル資産サービス事業者がステーブルコインを単純に保有していることだけを理由に、銀行預金の利息と経済的に近い報酬を支払うことを制限する方向となっている。一方、支払いや取引など実際の利用行動に連動した報酬については一定の余地を残す設計だ。
法案はまだ最終成立していない。上院では8月休会後の9月に重要な手続きが予定されており、必要な支持を確保できるかが焦点となる。したがってステーブルコイン報酬に関する条文も、最終成立まで修正される可能性が残っている。
なぜ重要なのか?
ステーブルコイン報酬が大きな争点になる理由は、銀行と暗号資産企業が同じドル資金を奪い合う構造になり得るためだ。利用者から見れば、銀行口座へドルを置くか、ステーブルコインへ変換して報酬を受け取るかという選択になる。
銀行は預金を集め、その一部を企業融資、住宅ローン、地域向け信用などへ回す。一方、決済用ステーブルコインでは準備資産として短期米国債や現金性資産を保有する構造が中心となる。そのため銀行側は、預金が大量にステーブルコインへ移れば、金融システム内の資金が銀行融資から国債保有へ振り替わる可能性を懸念している。
暗号資産業界側から見れば、報酬を過度に制限するとステーブルコインを使う経済的な魅力や決済サービスの競争力を損なう可能性がある。このため争点は報酬を認めるか禁止するかという二択ではなく、どの種類の報酬を銀行預金の利息と同等に扱うかという線引きになっている。
市場構造への影響
CLARITY Actは本来、暗号資産が証券か商品か、SECと商品先物取引委員会(CFTC)がどの領域を監督するかを整理する市場構造法案だ。しかしステーブルコイン報酬が主要争点になったことで、法案は暗号資産取引所の規則だけでなく銀行の資金調達構造にも影響する制度へ広がった。
銀行にとって預金は単なる顧客残高ではない。融資を支える比較的安定した資金源でもある。そこへ24時間移転でき、取引所やウォレットから報酬を受け取れるステーブルコインが競合すれば、銀行は預金金利、デジタル決済、トークン化預金などで対抗する必要が出てくる。
すでに米大手銀行では、銀行預金をブロックチェーン上で移転できるトークン化預金の開発も進んでいる。このため銀行業界のステーブルコイン報酬への懸念は、単なる規制ロビーとしてだけではなく、自らの決済・預金商品のデジタル化と並行する競争でもある。
今後の市場では、ステーブルコインと銀行預金が完全に別の金融商品として存在するのではなく、決済速度、報酬、預金保険、信用供給、規制保護といった機能ごとに競争する可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
ステーブルコインへの資金移動が銀行システムへ与える影響については見方が分かれている。銀行業界は、大量の預金流出が起きれば地域銀行の融資原資が減少すると主張する。一方、ステーブルコイン発行者が準備資産を銀行預金や米国債で保有するため、資金が金融システムから完全に消えるわけではないとの反論もある。
重要なのは、資金が残るかどうかだけではなく、どのバランスシートへ移るかだ。地域銀行の預金がステーブルコインへ移り、その準備資産が大手銀行や短期米国債へ集中すれば、金融システム全体のドル量が変わらなくても、地域融資へ使える資金の分布は変わる可能性がある。
現在の妥協案が単純保有への利息型報酬を制限し、支払いや取引に連動した報酬を残そうとしているのは、この競争を完全に止めずに銀行預金との直接競合を抑えようとする設計と見ることができる。
ただし実際にステーブルコイン報酬がどの程度の預金流出を引き起こすかは確定していない。利用者が決済利便性を重視するのか、預金保険や銀行サービスを重視するのかによって資金移動は変わるため、制度設計だけから規模を断定することはできない。
初心者向け補足
ステーブルコイン報酬とは、米ドル連動型ステーブルコインを保有したり利用したりすることで、取引所やサービス事業者から金銭的なインセンティブを受け取る仕組みを指す。
銀行預金の利息と似て見えるが、法的には同じものとは限らない。銀行預金には預金保険や銀行規制が適用される一方、ステーブルコインは別の準備資産制度と発行者規制の下で運営される。
現在議論されているCLARITY Actの妥協案では、ステーブルコインをただ保有しているだけで支払われる利息に近い報酬と、決済や取引を実際に行ったことへの報酬を分けようとしている。この区別が最終法案でどのように定義されるかが重要になる。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、シティグループがCLARITY Actに賛成か反対かという銀行業界の政治姿勢ではない。重要なのは、ステーブルコインが銀行預金と競争する存在として法律の中で具体的に扱われ始めたことだ。
GENIUS Actによってステーブルコイン発行者の制度が整い始めたことで、次の争点は誰が発行できるかだけではなくなった。そのステーブルコインを取引所やウォレットがどんな条件で利用者へ配布し、どんな報酬を付けられるかが銀行預金との競争条件を決める。
この議論では、暗号資産企業の成長と銀行保護のどちらか一方を選ぶだけでは不十分だ。預金は銀行の信用供給を支え、ステーブルコインは24時間決済やオンチェーン金融を支える。それぞれ異なる金融機能を持つため、報酬ルールはドル資金をどのインフラへ誘導するかという政策判断になる。
今後見るべきなのは、フレイザーの要望が法案へ採用されるかだけではない。最終条文で単純保有と決済行動への報酬がどう区別されるのか、銀行がトークン化預金などでどのように対抗するのか、そして実際のドル資金が銀行預金、ステーブルコイン準備資産、米国債の間でどう再配分されるのかが重要になる。CLARITY Actを巡るステーブルコイン論争は、暗号資産規制の一項目ではなく、デジタル時代に誰がドル預金を集め、誰がその資金を信用へ変換するのかという金融市場の競争ルールを決める問題になっている。
