Last Updated on 2026年8月11日 by oba3
米ミシガン州の連邦地裁は2026年8月7日、コインベース(Coinbase)が計画するスポーツ関連の予測市場を巡り、州当局による賭博法の執行を差し止めるよう求めた仮処分申請を退けた。シャリナ・クマール(Shalina Kumar)連邦地裁判事は、コインベースが本案で勝訴する可能性を十分に示しておらず、連邦法とミシガン州法の双方に従うことが不可能とも認められないと判断した。今回の焦点は、スポーツ予測という商品の是非だけではない。イベント契約を米商品先物取引委員会(CFTC)が一元的に監督する金融商品と見るのか、それとも州政府が賭博規制を適用できるのかという管轄権争いが、予測市場の全米展開を左右する段階に入っている。
何が起きたのか?
コインベースは、CFTCに登録された予測市場カルシ(Kalshi)のイベント契約を顧客へ提供する計画を進める中で、ミシガン州がスポーツ賭博法を適用することを阻止するため連邦裁判所へ提訴していた。コインベース側は、登録された指定契約市場で取引されるイベント契約については商品取引所法の下でCFTCが排他的な監督権限を持ち、州の賭博規制は連邦法によって排除されると主張している。
これに対しクマール判事は8月7日、州側の執行を止める予備的差止命令を認めなかった。裁判所は、この段階でコインベースが連邦法による州法の排除を十分に立証したとはいえず、連邦規制への対応とミシガン州法への対応が同時に不可能であるとも示されていないと判断した。
ただし今回の決定は、最終的にミシガン州が予測市場を全面的に規制できると確定した判決ではない。予備的差止めを認めるための要件をコインベースが満たさなかったという段階であり、本訴訟では引き続き連邦法と州法の関係が争われる。
また、この問題はミシガン州だけで起きているわけではない。カルシや予測市場を提供する企業は複数州で同様の訴訟を抱えており、裁判所の判断も統一されていない。2026年4月には第三巡回区控訴裁判所がニュージャージー州によるカルシへの規制を差し止める判断を支持した一方、7月にはニューヨークの連邦地裁がカルシによる州規制差し止め請求を退けた。8月にはユタ州でも州側の執行を認める方向の判断が示されている。
なぜ重要なのか?
予測市場にとって最大の制度問題の一つは、スポーツ契約が合法か違法かという個別論ではなく、誰がその判断をする権限を持つかである。CFTCは、登録された指定契約市場で扱われるイベント契約について、自らが排他的な連邦監督権限を持つとの立場を明確にしている。
一方、州側から見ると、スポーツの勝敗を条件として金銭を受け取る商品は、経済的には既存のスポーツ賭博と近い。州政府はギャンブル依存対策、年齢確認、スポーツの公正性、事業者ライセンスなどを理由に、従来の州賭博法を適用できると主張している。
この二つの考え方が衝突すると、同じイベント契約でも州によって提供可能かどうかが変わる。CFTC登録を取得すれば全米で統一的にサービスを提供できる市場になるのか、それとも50州それぞれの賭博制度にも対応しなければならないのかで、予測市場事業のコスト構造は大きく異なる。
市場構造への影響
今回のミシガン州での判断が重要なのは、予測市場の市場アクセスモデルに直接関係するからだ。CFTC専管という考え方が確立すれば、指定契約市場とその仲介企業は連邦レベルの一つの制度を基盤に全国展開しやすくなる。
反対に、スポーツ関連イベント契約について州法も適用できるという判断が広がれば、事業者は州ごとに商品提供の可否を判断する必要がある。ある州では利用できるが別の州では停止する、特定のスポーツ契約だけ除外する、位置情報によってアクセスを制限するといった運用が必要になる可能性がある。
この違いは単なる法務コストではない。利用できる顧客数が州ごとに分断されれば、一つの契約へ集まる注文も分散する。予測市場では参加者が多いほど売買価格が形成されやすいため、市場アクセスの分断は商品数、出来高、スプレッドなどにも影響し得る。
つまり管轄権争いは法律の解釈問題であると同時に、市場を全国一つの流動性プールとして運営できるか、それとも州境によって細分化されるかを決める市場設計の問題でもある。
資金・規制・流動性との関係
CFTCは2026年に入り、州政府による予測市場への規制を強く問題視している。同委員会はイベント契約について排他的な監督権限を持つとの立場を繰り返し示し、複数州との法廷闘争にも直接関与している。6月に公表した予測市場に関する規則案でも、州当局の執行や訴訟がイベント契約市場の制度設計に影響していることを明示した。
しかし裁判所では判断が分かれている。ニュージャージー州を巡る第三巡回区の判断は連邦側の主張を支える材料になった一方、ニューヨーク、ミシガン、ユタなどでは州による規制を直ちに排除しない判断が出ている。現時点では、全国で統一された一つの法的ルールが確立したとはいえない。
この不確実性は事業者の資金配分にも関係する。各州で訴訟を続けながらサービスを展開するのか、判例が固まるまで一部地域への進出を控えるのか、州ライセンス取得という別経路を選ぶのかによって必要な法務・コンプライアンス投資が変わる。
さらに地域制限が増えれば、スポーツ契約の注文が複数の制度圏へ分断される可能性がある。予測市場では規制そのものが市場への入口を決めるため、管轄権の線引きは利用者保護だけでなく、どこへ流動性が集まるかにも関係する。
初心者向け補足
予測市場のイベント契約とは、スポーツの勝敗や選挙結果、経済指標など、将来の出来事によって支払いが決まる契約だ。米国では一部のイベント契約がCFTCに登録された市場で取引されているため、事業者側は金融派生商品の一種として連邦規制を受けるという立場を取っている。
一方、スポーツブックなどの賭博は主に州政府が規制している。州によって合法化の有無やライセンス条件が異なるため、スポーツイベントを対象にした予測市場が金融商品なのか賭博なのかによって、適用される制度が大きく変わる。
今回の「差し止め請求の棄却」も、コインベースのサービスが最終的に違法と確定したという意味ではない。訴訟の結論が出るまで州当局による執行を止める特別な命令を、現段階では出さなかったという判断だ。この違いを分けて理解する必要がある。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回追うのは、コインベースがミシガン州で一度敗れたという勝敗ではない。焦点は、予測市場を全国一つの金融市場として扱えるのか、それとも州ごとの賭博制度によって分割されるのかという市場アクセスの設計だ。
CFTC専管が確立すれば、事業者は連邦登録を基盤にイベント契約を全国へ展開しやすくなる。一方、州の権限が維持されれば、スポーツ契約だけ州ごとに停止するような地域分断が常態化する可能性がある。そうなれば、予測市場の競争力は商品の面白さだけでなく、何州で合法的に顧客と流動性を集められるかにも左右される。
特に重要なのは、裁判所の判断が現在も割れていることだ。第三巡回区では連邦側に有利な判断が出る一方、ニューヨーク、ミシガン、ユタでは州規制を直ちに排除しない流れも確認されている。どちらか一方の制度モデルが全国標準になった段階ではない。
今後見るべきなのは個々の訴訟件数ではなく、連邦控訴裁判所間で判断の違いが広がるか、CFTCの新しい予測市場規則が管轄問題をどこまで整理できるか、そして最終的に連邦議会や最高裁が州との境界を明確にする必要が生じるかだ。予測市場の次の成長上限を決めるのは、上場できるイベントの数だけではない。誰が市場への入口を規制するのかという管轄権そのものが、全国市場を作れるかどうかの基盤になっている。
