米財務省がShelbitとAban Tetherを制裁対象に指定、暗号資産制裁は取引所単体から国境間の決済経路遮断へ広がる

Last Updated on 2026年8月11日 by oba3

米財務省の外国資産管理局(OFAC)は2026年8月7日、イランの暗号資産取引所シェルビット(Shelbit)とアバン・テザー(Aban Tether)を含む複数の人物・企業を制裁対象に指定した。財務省によると、シェルビットではイスラム革命防衛隊(IRGC)関連ウォレットとの間で数百万ドル規模の暗号資産が移動し、アバン・テザーも過去に制裁指定された複数のイラン系取引所と数百万ドル規模の取引を処理していた。今回の重要点は、特定の取引所名が制裁リストへ追加されたことだけではない。ブロックチェーン上では国境を越えて資金が移動できるため、制裁対象から別の取引所、ステーブルコイン、ウォレットへ続く資金経路をどこで遮断するかが実務上の焦点になっている。

目次

何が起きたのか?

米財務省は8月7日、イラン政府が暗号資産と国際的な企業ネットワークを利用し、制裁を回避しながら国際金融システムへアクセスしていたとして新たな制裁措置を発表した。対象にはシェルビットを運営する企業群や関係者に加え、イラン国内の暗号資産取引所アバン・テザーが含まれる。

財務省によると、シアバシュ・ケイバンプール(Siavash Kayvanpour)がジョージアを拠点とするSHPS Shelbitを通じてシェルビットを運営していた。IRGCに属するデジタル資産アドレスからシェルビットのアドレスへ100万ドル超が送られ、反対方向にもシェルビットからIRGC関連アドレスへ200万ドル超が移動したとしている。

さらにケイバンプールが所有または管理するアドレスからは、すでに米国の制裁対象となっているイラン最大級の暗号資産取引所ノビテックス(Nobitex)へ200万ドル超が送金されたと財務省は説明した。シェルビットについては、イラン語圏のオンライン賭博ネットワークから数千万ドル規模のデジタル資産が流れ込み、資金洗浄に利用されたとの認定も示されている。

一方、アバン・テザーについて財務省は、ノビテックスのほか、ウォレックス(Wallex)、ビットピン(Bitpin)、ラムジネックス(Ramzinex)など過去に制裁対象となったイラン系暗号資産取引所との間で数百万ドル規模の取引を処理していたと説明した。アバン・テザーはイラン金融部門で活動したことを根拠に制裁対象へ指定された。

今回の指定により、対象者が米国内に持つ財産や米国人の管理下にある資産は原則として凍結される。また、制裁対象者が直接または間接的に50%以上所有する企業も原則として制裁対象となる。米国人や米国を経由する取引についても、OFACの許可や適用除外がない限り禁止される。

なぜ重要なのか?

暗号資産制裁では、銀行口座を閉鎖するだけでは資金経路を止められない。送金者がウォレットを変更したり、別の取引所を経由したり、ステーブルコインへ交換したりすれば、資金は複数のネットワークをまたいで移動できるからだ。

そのためOFACが制裁対象を指定すると、実務上は名称だけでなく関連ウォレット、取引履歴、資金の流入元と流出先まで監視する必要が生じる。今回のシェルビットでも、財務省はIRGC関連アドレスとの直接的な資金移動だけでなく、既指定のノビテックスやオンライン賭博網との接続まで示した。

アバン・テザーの指定も同じ構造を示している。同社について財務省が示した中心的な事実は、複数の既指定イラン系取引所との取引処理だ。制裁対象と直接取引していなくても、その先の取引相手や資金源との関係を分析する重要性が高まっている。

暗号資産ではブロックチェーン上に取引履歴が残るため追跡しやすい面がある一方、資金を多数のアドレスやサービスへ分散できる。制裁執行は、特定企業をリストへ載せる作業から、国境をまたぐ資金経路全体を継続的に追う作業へ変わっている。

市場構造への影響

今回の措置によって負担が増えるのは、イラン関連の取引所だけではない。グローバルな暗号資産取引所、カストディ企業、ステーブルコイン発行者、ブロックチェーン分析企業など、資金移動の中継点になり得る事業者にも影響が及ぶ。

中央集権型取引所では、顧客確認だけでなく入出金アドレスの制裁スクリーニングが重要になる。あるウォレット自体が制裁リストへ掲載されていなくても、直前に制裁対象アドレスから資金を受け取っている場合、その取引をどう評価するかという問題が残る。

ステーブルコイン事業者も同様だ。ドル連動型トークンは国境間の送金や取引決済に広く利用されるため、制裁対象者が銀行を使わずにドル価値を移転する経路になり得る。一方、一部のステーブルコインには特定アドレスを凍結できる管理機能があり、法執行機関や制裁当局との連携によってオンチェーン上の資産移動を止められる場合もある。

この構造では、暗号資産の国境を越える性質と、発行者や取引所が持つ管理権限が同時に存在する。ブロックチェーン自体を停止しなくても、主要な取引所への入金、法定通貨への交換、ステーブルコイン利用といった出口を制限することで、資金利用の難易度を上げることができる。

資金・規制・流動性との関係

米財務省は今回の措置にあたり、イラン系暗号資産取引所と取引する場合の二次制裁リスクにも改めて注意を促している。これは米国企業だけの問題ではない。非米国企業であっても、一定の制裁対象者へ重要な金融サービスを提供するなどした場合、米国の制裁措置へ巻き込まれる可能性がある。

その結果、グローバル取引所は米国利用者を扱っていなくても、イラン関連アドレスとの資金接点を無視しにくくなる。制裁対象との距離を判断するため、顧客情報だけでなくオンチェーン取引履歴を組み合わせた監視が必要になる。

この対応が広がると、制裁指定された取引所の暗号資産が消えるわけではないものの、換金できる場所や利用できるサービスは減少する。大手取引所が入金を拒否し、カストディ企業が受け入れず、ステーブルコイン発行者が対象資産を凍結すれば、オンチェーン上に残高が存在していても実際に利用できる流動性は低下する。

一方、分散型取引所や自己管理ウォレットのように中央管理者がいない経路まで完全に遮断することは難しい。このため制裁執行では、ブロックチェーン上の全送金を止めるのではなく、銀行、中央集権型取引所、ステーブルコイン、カストディなど、実体経済との接続点を押さえる戦略が重要になる。

初心者向け補足

OFACは米財務省の中で経済制裁を担当する機関だ。制裁対象となった人物や企業はSDNリストなどへ掲載され、米国内の資産や米国人が管理する資産が原則として凍結される。

暗号資産の場合も基本的な考え方は同じで、ビットコインやステーブルコインだから制裁の対象外になるわけではない。ウォレットアドレスや取引所を通じて制裁対象者の資産を扱えば、取引内容によっては規制上の問題が生じる。

ただし、あるウォレットから資金を受け取っただけで自動的に全利用者が制裁対象になるわけでもない。誰が資金を管理しているのか、どのような取引関係があるのか、制裁対象者へ資金やサービスを提供したのかなどを個別に判断する必要がある。

今回も、シェルビットとアバン・テザーが同じ理由で指定されたわけではない。シェルビット側ではIRGC関連アドレスとの直接的な資金移動が示され、アバン・テザーではイラン金融部門での活動と既指定取引所との取引関係が示されている。この違いを分けて理解することが重要だ。

Web3Timesの視点

Web3Timesが今回注目するのは、OFACが新しく二つの暗号資産取引所を制裁対象へ加えたという件数ではない。焦点は、暗号資産を使った国境間決済網をどの地点で遮断しようとしているかだ。

シェルビットの事例では、IRGC関連ウォレット、民間取引所、オンライン賭博網、既指定取引所が資金の流れによってつながっていたと財務省は説明している。従来の銀行制裁なら金融機関の口座を閉じることで資金移動を止められたが、暗号資産ではウォレットからウォレットへ直接送金できる。そのため制裁当局は、オンチェーン分析によって資金経路を特定し、実際に資産を利用できるサービス側へ制限を広げる必要がある。

特に重要になるのがステーブルコインと大手取引所だ。制裁対象者が暗号資産を保有し続けること自体を完全に防げなくても、ドル連動資産への交換、法定通貨への換金、大規模な取引所への入金を難しくすれば、資金の実用性を下げることができる。制裁の効力はウォレットを消すことではなく、価値を移動・交換できる経路を狭めることで生まれる。

今後追うべきなのは追加指定の件数だけではない。シェルビットやアバン・テザーと接点を持つアドレスを主要取引所がどう扱うのか、ステーブルコイン事業者が凍結措置を取るのか、資金が別の取引所やチェーンへ移るのかが重要になる。暗号資産制裁の実効性は、リストへ名前を載せた時点では決まらない。その後、オンチェーン上の資金がどこへ移り、どの金融サービスで行き止まりになるかによって決まる。

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