Last Updated on 2026年9月26日 by oba3
IBMは9月24日、デジタル資産基盤のIBMデジタル・アセット・ヘイブン(IBM Digital Asset Haven)から、スウィフト(Swift)が開発するブロックチェーン型共有台帳へ接続できるベータ機能を発表した。新しいISO 20022メッセージングアダプターを使うことで、銀行は既存の決済業務で利用しているISO 20022形式のメッセージから、共有台帳上のトークン化預金取引を指示できる。
重要なのは、新しいブロックチェーンを銀行へ売り込む話ではない。銀行がすでに使っている決済メッセージ、コンプライアンス手続き、最終決済の仕組みを維持しながら、その途中にトークン化預金と共有台帳を組み込める点にある。既存金融とオンチェーン決済をつなぐ中間層が整えば、銀行は基幹業務を全面的に作り直さずにデジタル資産決済へ移行できる可能性がある。
何が起きたのか?
IBMによると、Digital Asset Havenの顧客は今回のベータ機能を通じて、Swiftの許可型共有台帳を含むブロックチェーンネットワークへ接続できる。ISO 20022メッセージングアダプターが、従来型の決済メッセージとオンチェーン取引の間をつなぐ役割を担う。
Swiftの共有台帳では、銀行が発行するトークン化預金を扱う構想が進められている。IBMの接続を利用する参加金融機関は、デジタル資産を24時間365日移動させながら、最終的な資金決済には既存の決済インフラを利用する。つまり、すべての銀行決済が直ちにブロックチェーンへ置き換わる仕組みではない。
Swiftの共有台帳は40を超える金融機関と設計され、現在は17の先行金融機関がトークン化預金の実証に参加している。IBMによれば、参加金融機関はすでにDigital Asset Havenを使ったトークン化預金のテストも実施している。
IBMは同時に、Digital Asset Havenを銀行自身のデータセンター内で運用できるオンプレミス版のベータ提供も発表した。IBM ZやIBM LinuxONE上で動作し、ステーブルコインやトークン化預金の管理に必要なシステムと鍵管理を、自社環境内に置ける設計となっている。
なぜ重要なのか?
銀行がブロックチェーン決済を採用する際の障壁は、台帳技術そのものだけではない。既存銀行では送金指示、本人確認、制裁チェック、会計処理、監査、最終決済などが長年構築されたシステムと業務手順の上で動いている。
新しいトークン化ネットワークへ参加するたびに、これらをブロックチェーン専用の形式へ作り直す必要があれば導入負担は大きい。今回の仕組みでは、既存の国際金融メッセージ標準であるISO 20022を入口として使えるため、銀行側の変更範囲を抑えながら共有台帳へ接続できる。
これは金融機関にとって、既存システムかブロックチェーンかという二者択一ではなく、両方をつなぐ選択肢が増えることを意味する。トークン化預金が普及するうえでは、この互換層が重要になる。
市場構造への影響
これまでデジタル資産市場では、どのブロックチェーンを使うかが大きな競争軸だった。しかし銀行向け市場では、チェーンそのものより、既存の決済インフラから新しい台帳へどう接続するかが重要になりつつある。
銀行がISO 20022メッセージを送り、その指示を中間層がオンチェーン取引へ変換できれば、行員や既存システムがブロックチェーン固有の操作を直接扱う必要は減る。利用者から見れば従来の銀行サービスでも、裏側の資金移動だけがトークン化される構造も作りやすくなる。
ここでIBMが担うのは、新しい通貨を発行する役割ではない。鍵管理、取引署名、ポリシー管理、ブロックチェーン接続などをまとめ、銀行システムとデジタル台帳の間をつなぐインフラ層だ。金融のトークン化が進むほど、こうした中間層の重要性は高まる可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
トークン化預金の利点は、銀行預金としての関係を維持したまま、デジタル台帳上で資金移動をプログラムできる点にある。ただし、台帳上でトークンが移動することと、中央銀行マネーなどを使った最終決済が完了することは同じではない。
SwiftとIBMの現在の構成では、共有台帳上で24時間資産を移動できる一方、最終決済は既存の金融市場インフラを利用する。この設計なら、銀行は現在の決済制度を維持しながら、トークン化された資金移動を段階的に追加できる。
またオンプレミス版が用意されたことは、規制金融機関にとって重要だ。秘密鍵やデジタル資産管理を自社データセンター内に置く選択肢があれば、データ管理、セキュリティー、内部統制の要件に合わせて導入方法を設計しやすくなる。
初心者向け補足
ISO 20022とは、銀行や決済ネットワークが送金情報をやり取りするための国際的なメッセージ標準だ。銀行は「誰から誰へ、いくら送るか」といった情報を決められた形式で交換している。
一方、ブロックチェーンでは取引を実行するために、そのネットワーク固有の命令や署名処理が必要になる。IBMの新しいアダプターは、この二つの間を橋渡しし、銀行が使い慣れたメッセージからトークン化預金の取引を指示できるようにする。
また、今回の発表はSwiftが独自ステーブルコインを発行したという意味ではない。対象となるのは銀行が発行するトークン化預金であり、既存銀行マネーをデジタル台帳上で扱うための仕組みだ。
Web3Timesの視点
今回のニュースを新しいブロックチェーン競争として見ると、本質を見落とす。重要なのは、銀行がこれまで使ってきたメッセージ標準を捨てずに、トークン化された決済ネットワークへ入れる仕組みが作られていることだ。
金融インフラは、新技術が優れているだけでは置き換わらない。銀行には巨大な基幹システム、コンプライアンス手続き、清算・決済網があり、それらとの互換性がなければ大規模導入は難しい。そのためトークン化金融では、新しい台帳そのものだけでなく、既存金融をそこへ接続するソフトウェア層が大きな市場になる。
Swiftは金融機関をつなぐメッセージ網を持ち、IBMは企業向けシステムとデジタル資産管理基盤を持つ。両者が接続することで、銀行は従来の操作体系を残したままトークン化預金を扱える経路を得る。
今後見るべきなのは、どのチェーンが勝つかではない。ISO 20022で送られた既存の銀行指示が、トークン化預金、デジタル証券、最終決済までどこまで連続して処理できるようになるかだ。銀行の画面や業務手順を大きく変えず、裏側だけをデジタル資産基盤へ接続できるようになれば、RWAの普及は新しい金融システムをゼロから構築する形ではなく、現在の金融網を段階的にオンチェーン化する形で進む可能性がある。
