Last Updated on 2026年9月26日 by oba3
アーベ(Aave)は9月25日、ベース(Base)上のAave V4で、コインベース(Coinbase)が発行するトークン化米国株式を担保としてUSDCを借りられる「Equities Hub」を開始した。対象はアップル、アマゾン、アルファベット、メタ、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの7銘柄で、利用できるのは対象地域の米国外の適格ユーザーとなる。
今回の重要点は、トークン化株式が単に24時間アクセス可能な売買商品になったことではない。株式に連動するオンチェーン資産を担保として預け、その価値をもとにステーブルコインを借りられるようになったことで、証券市場に存在する資産価値とDeFiの信用市場が直接つながった。RWAが「保有して売買する資産」から「資金調達に使える担保」へ進んだ事例として見る必要がある。
何が起きたのか?
Aave V4のEquities Hubでは、AAPLc、AMZNc、GOOGLc、METAc、MSFTc、NVDAc、TSLAcの7種類のコインベース・トークナイズド・ストックス(Coinbase Tokenized Stocks)を担保として供給し、USDCを借りられる。
開始時点では株式トークンそのものを借りる機能は提供されていない。利用者が株式トークンを担保として預け、USDCだけを借りる設計で、各銘柄にはそれぞれ異なる担保係数が設定される。複数銘柄を組み合わせて一つの担保ポジションとして利用することもできる。
コインベースのトークン化株式は、単に米国株の価格を追跡する合成トークンではない。各トークンはコインベース・オンチェーンSPV(Coinbase Onchain SPV Ltd.)が発行する証書を表し、その裏付けとなる実株式はSEC登録ブローカーディーラーのアルパカ・セキュリティーズ(Alpaca Securities LLC)が分別口座で保管する。
配当は現金で直接支払われるのではなく、手数料や源泉税などを差し引いたうえで追加株式の購入に再投資される設計だ。株式分割などのコーポレートアクションもトークン側へ反映されるため、保有者は株価だけでなく実株式の経済的価値へ連動する形になる。
価格データにはチェーンリンク(Chainlink)が提供するトークン化株式向けフィードを利用する。価格更新は米国株市場に合わせた24時間・週5日を基本とし、週末や米国市場の休場日には最後に更新された価格が維持される。
なぜ重要なのか?
これまでトークン化株式の議論では、「米国株をブロックチェーン上で取引できる」という流通面が注目されてきた。しかし金融市場では、資産の価値は売買できるだけでなく、担保として資金調達に使えることでさらに大きな意味を持つ。
従来の金融でも、株式や国債などを担保として資金を借り、その資金を別の投資や事業に回す仕組みが存在する。今回Aave V4が行ったのは、この担保金融の考え方をオンチェーンへ持ち込むことだ。
利用者は保有する株式トークンを売却せずに、その価値の一部をUSDCとして流動化できる。つまり株式への経済的エクスポージャーを維持しながら、別のオンチェーン資産へ使える資金を取り出せるようになる。
この違いは大きい。トークン化株式が取引所で売買されるだけなら、既存証券市場の新しい販売チャネルに近い。しかし担保としてDeFiへ組み込まれると、株式が信用創造の材料になる。
市場構造への影響
今回の仕組みは、証券市場とDeFi市場の間に存在していた資本の境界を薄くする可能性がある。従来、米国株を保有する投資家が暗号資産市場でUSDCを必要とする場合、株式を売却したり、証券口座とは別に資金を移したりする必要があった。
トークン化株式がオンチェーン担保になれば、この二つの市場を同じ資産状態のまま接続できる。株式を保有しながら、その評価額を担保能力へ変換し、DeFi市場からUSDCを調達する構造だ。
Aave V4ではこの市場を専用のEquities Hubとして分離している。USDCを供給する利用者は、トークン化株式を担保とする融資市場へ資金を出すことを明示的に選択する形となり、他のAave市場とはリスクを分けて管理する。
これはRWA市場が拡大するうえで重要な設計だ。国債、株式、不動産など異なるRWAは価格変動や取引時間、清算方法が異なるため、すべてを同じ担保プールへ入れるより、資産ごとにリスクを分離した信用市場を作る方が管理しやすい。
資金・規制・流動性との関係
トークン化株式を担保にする際には、暗号資産とは異なる課題もある。最大の違いの一つが取引時間だ。Aave自体は24時間365日動く一方、裏付けとなる米国株市場は常時取引ではない。
今回利用するチェーンリンクの価格フィードは週5日の更新となり、週末や休場日には最後の価格が保持される。その間もAave上では借入利息が発生するため、担保価格が動かなくてもポジションの健全性が変化する場合がある。
また、株式分割などのコーポレートアクション発生時には、該当する担保市場を一時停止し、新しいトークン倍率を反映してから再開する設計となっている。暗号資産にはない証券特有のイベントを、DeFiのリスク管理へ組み込む必要があるためだ。
規制面でも利用者は限定される。コインベースのトークン化株式はレギュレーションSに基づき、許可された地域の米国外の適格者向けに提供されている。今回のAave市場も、米国の一般利用者向けに米国株担保融資を提供する仕組みではない。
それでも、実株式を裏付けとする証券がオンチェーンで担保化され、USDC流動性へ接続されたことには意味がある。トークン化資産の規模が増え、取引所での流動性が厚くなれば、Aave側も供給上限や借入条件を見直していく方針を示している。
初心者向け補足
担保融資とは、資産を預け、その価値をもとに別の資産を借りる仕組みだ。住宅ローンで不動産が担保になるのと考え方は似ており、DeFiでは暗号資産をスマートコントラクトへ預けてステーブルコインなどを借りる方法が広く使われている。
今回新しいのは、その担保がビットコインやイーサリアムではなく、アップルやエヌビディアなどの株式を裏付けとするトークンになったことだ。
たとえば株式トークンを保有する利用者は、その資産を売らずにAaveへ預け、一定範囲のUSDCを借りられる。ただし株価が下落して担保価値が一定水準を下回れば、通常のDeFi融資と同様に清算される可能性がある。
また、トークン化されたからといって株式市場が完全に24時間化したわけではない。Aaveのスマートコントラクトは常時稼働するが、裏付け株式の価格形成は米国株市場の時間帯に依存する。この時間差をどう管理するかも、トークン化証券をDeFiへ組み込むうえで重要になる。
Web3Timesの視点
今回のニュースを「米国株がAaveで使えるようになった」とだけ読むと、変化の核心を見落とす。重要なのは、株式トークンが売買対象から担保資産へ役割を広げたことだ。
金融市場では、資産が担保として認められると、その価値を売却せずに別の資金へ変換できる。国債がレポ市場を支え、証券が信用取引の担保になるのと同じように、トークン化株式がDeFi融資の担保になれば、オンチェーン上にも証券を起点とした信用市場が形成される。
ここでRWAの意味も変わる。これまでは「現実資産をブロックチェーンへ載せる」こと自体が中心テーマだった。しかし資産をトークン化しただけでは、既存金融の資本効率を再現したことにはならない。担保として使い、借入を行い、他の資産と組み合わせられるようになって初めて、オンチェーン金融の部品として機能する。
Aave V4のEquities Hubは、そのために株式固有のリスクを他市場から分離しながら、USDCというオンチェーン流動性へ接続する。株式側には実証券の保管と規制があり、DeFi側にはスマートコントラクトによる融資と清算がある。この二つを同じ担保取引の中で接続した点が今回の特徴だ。
今後見るべきなのは、トークン化株式の発行銘柄数だけではない。どれだけの証券が担保として認められ、どの程度のUSDCや他のデジタルマネーを調達でき、証券市場の流動性とDeFiの信用市場がどこまで連続していくかである。RWA市場が売買市場から信用市場へ進めば、オンチェーン金融の資本効率そのものが変わる可能性がある。
