Last Updated on 2026年9月29日 by oba3
フランクリン・テンプルトン(Franklin Templeton)とバイビット(Bybit)は9月28日、機関投資家向けのトークン化資産担保プログラムを開始した。対象となるのは、フランクリン・テンプルトンのベンジ・テクノロジー・プラットフォーム(Benji Technology Platform)を通じて発行されるトークン化マネー・マーケット・ファンドで、適格投資家はこれを担保としてUSDTまたはUSDC建ての取引信用枠を利用できる。
重要なのは、トークン化されたファンドを単に保有したり売買したりする用途ではないことだ。利回りを生む伝統金融資産を取引所の外で保管したまま、その価値だけをバイビットの取引環境へ反映し、デリバティブ取引などの信用供与に利用できる。RWAが投資対象から担保資産へ役割を広げることで、伝統金融にある資産価値と暗号市場の取引流動性が直接つながり始めている。
何が起きたのか?
今回の提携では、適格な機関投資家がベンジを通じて発行されたトークン化マネー・マーケット・ファンド持分を、バイカストディー(ByCustody)で保管したまま担保として差し入れられる。
担保となる資産そのものをバイビットの取引所口座へ移す必要はない。保管されている資産価値がバイビット側の取引環境へ反映され、その評価額を基にUSDTまたはUSDCの信用枠が設定される。投資家はトークン化ファンドから得られる利回りへのエクスポージャーを維持しながら、暗号資産市場で取引資金を利用できる。
バイビットによると、この仕組みはオフ・エクスチェンジ担保プログラムとして提供される。取引に使う担保を取引所へ直接預けないため、中央集権型取引所へのカウンターパーティーリスクを抑えながら、取引枠を確保できる設計となっている。
フランクリン・テンプルトンは約1.7兆ドルの運用資産を持ち、ベンジを通じてブロックチェーン上で記録・移転可能なファンド商品を展開してきた。同社は2026年2月にもバイナンス(Binance)と同様のオフ・エクスチェンジ担保プログラムを開始しており、今回のバイビットとの提携は、トークン化資産を暗号市場の担保として利用する経路をさらに広げる動きとなる。
なぜ重要なのか?
機関投資家が暗号デリバティブを取引する際には、取引所へどの資産を担保として置くかが資本効率を左右する。現金やステーブルコインだけを担保にすると、その資金は取引のために拘束され、別の運用収益を生みにくくなる。
一方、利回りを生むマネー・マーケット・ファンドを担保として使えるなら、投資家は資産を売却してUSDCやUSDTへ変換する必要がない。伝統金融資産からの収益を維持しながら、その評価額を暗号市場の取引余力へ変換できる。
この違いは、トークン化商品の用途を大きく変える。RWAが単にオンチェーンで購入できるだけなら、既存金融商品の新しい販売チャネルに近い。しかし取引担保として認められれば、その資産価値が新たな信用供与やポジション形成を支えるようになる。
市場構造への影響
金融市場では、担保として使える資産ほど資本効率が高くなりやすい。米国債やマネー・マーケット・ファンドが伝統金融で重要なのは、安全資産として保有されるだけでなく、レポ取引や証拠金管理など幅広い信用取引を支えるからだ。
トークン化された同種資産が暗号取引でも担保として利用されれば、伝統金融とデジタル資産市場の間に新しい資金経路が生まれる。機関投資家は一度資産を現金化してから暗号市場へ資金を移すのではなく、既存ポートフォリオを維持したまま取引信用へ変換できる。
さらに今回の仕組みでは、担保を取引所の内部へ移さない点が重要になる。暗号取引所ではこれまで、取引に使う資産を取引所口座へ預けるモデルが一般的だった。しかし機関投資家が大規模資産を取引所へ集中させると、相手方リスクが大きくなる。
オフ・エクスチェンジ担保では、資産を外部カストディーへ保持したまま、その価値だけを取引所側で信用供与に利用する。取引所は流動性を提供し、カストディアンは資産保管を担当し、資産運用会社はトークン化ファンドを提供するという役割分担が形成される。
資金・規制・流動性との関係
今回対象となるのは、フランクリン・テンプルトンの規制されたマネー・マーケット・ファンドを基礎とするトークン化資産だ。つまり新しい無担保トークンを信用枠の裏付けにするのではなく、伝統金融で管理されている利回り資産をデジタル形式で利用する。
この設計は機関投資家にとって重要になる。暗号資産を直接担保にすると価格変動が大きく、担保価値の急落による追加証拠金や清算リスクが高まりやすい。短期金融資産を基礎とするトークン化ファンドであれば、価格変動を抑えながら信用枠を設定しやすい。
また、バイビット側も担保資産ごとに信用枠やリスク管理を設定する必要がある。トークン化されているからといって額面全額がそのまま取引余力になるわけではなく、資産の流動性、価格変動、償還条件、カストディー構造などを踏まえて担保価値を評価する必要がある。
こうした仕組みが広がれば、暗号デリバティブ市場の流動性は暗号資産だけで支えられるものではなくなる。国債、マネー・マーケット・ファンド、将来的にはその他のトークン化証券が、暗号市場の証拠金や信用供与を支える可能性がある。
初心者向け補足
担保とは、資金を借りたり取引枠を得たりする際に、返済能力を裏付けるために預ける資産のことだ。暗号取引ではビットコインやステーブルコインを担保としてデリバティブ取引を行うケースが多い。
今回の仕組みでは、その担保としてフランクリン・テンプルトンが運用するトークン化マネー・マーケット・ファンドを利用する。投資家はファンドを売却してUSDCやUSDTへ変換しなくても、その資産価値を基に取引信用枠を得られる。
また、トークン化された資産そのものをバイビットへ預けるわけではない。資産はバイカストディー側で保管され、その評価額だけがバイビットの取引環境へ反映される。このため「担保として利用すること」と「取引所へ資産を移管すること」を分離できる。
対象は適格な機関投資家向けであり、すべてのバイビット利用者が同じ条件で利用できるサービスではない。利用可能地域や適格性は規制やサービス条件によって異なる。
Web3Timesの視点
今回を「フランクリン・テンプルトンの商品がバイビットへ追加された」とだけ読むと、RWA市場で起きている変化を十分に捉えられない。重要なのは、トークン化された伝統金融資産が保有対象から信用市場を支える担保へ変わっていることだ。
これまでRWAでは、国債やファンドをブロックチェーン上で発行し、ウォレットから保有できることが主なテーマだった。しかし金融市場では、資産は保有されるだけでなく、担保として再利用されることでより大きな資本効率を生む。
今回の仕組みでは、フランクリン・テンプルトンが資産を組成し、カストディー基盤が保管し、バイビットがその評価額を取引信用へ変換する。伝統金融資産と暗号市場の間を、売却や現金化を挟まずに接続する中間層が作られた。
この構造が拡大すれば、暗号デリバティブ市場へ流れ込む資本の種類も変わる。ビットコインやステーブルコインだけでなく、短期国債やファンドなどの規制資産が証拠金として利用されれば、オフチェーンで形成された巨大な金融資産が暗号市場の流動性を直接支える経路が増える。
今後見るべきなのは、トークン化商品の発行残高だけではない。どれだけの資産が取引所や清算市場で担保として認められ、どの程度の信用枠を生み出し、その資本がデリバティブ市場へ流れるかである。RWAが本格的な金融インフラになるかどうかは、保有できるかではなく、担保として信用創造へ組み込めるかによって大きく左右される。
