英国大手銀行がトークン化預金の銀行間取引を実施、既存預金を維持した共有デジタル決済網が実証段階へ

Last Updated on 2026年9月25日 by oba3

英国の大手銀行が、トークン化された英ポンド預金を複数の銀行間で移転する実取引を完了した。業界団体UKファイナンス(UK Finance)は、銀行間でトークン化預金を利用した顧客取引として世界初の事例だとしている。参加するのはバークレイズ(Barclays)、HSBC UK、ロイズ・バンキング・グループ(Lloyds Banking Group)、モンゾ(Monzo)、ネーションワイド(Nationwide)、ナットウエスト(NatWest)、サンタンデール(Santander)の7行だ。

今回の焦点は、銀行がステーブルコインに似た新しい暗号資産を発行したことではない。既存の銀行預金としての法的性質や保護を維持したまま、複数銀行の間を移動できる共有型デジタルマネーへ変換した点にある。銀行ごとに閉じていた預金台帳を接続できれば、法人決済やRWAの決済側にも新しい資金移動レールが形成される可能性がある。

目次

何が起きたのか?

UKファイナンスが主導する「グレート・ブリティッシュ・トークナイズド・デポジット(Great British Tokenised Deposit・GBTD)」プロジェクトでは、トークン化された商業銀行預金を使った最初の実顧客取引が完了した。

実証には二つの住宅ローン借り換え取引が含まれ、ロイズ、ナットウエスト、バークレイズが関与した。資金をあらかじめロックし、不動産取引の完了条件が満たされた時点で自動的に解放する仕組みを利用した。これにより、決済完了までの手動確認を減らしながら、利用者の資金を必要な時点まで銀行口座内に保持できる構造が試された。

別の実証では、HSBCを含む銀行グループがオンライン市場での商品購入を想定した個人間決済を行った。買い手の資金を条件成立まで保持し、商品の受け渡しが確認された場合に売り手へ移転する仕組みを検証した。

重要なのは、これらが単一銀行内部のトークン化ではなく、異なる銀行に置かれた預金を共通インフラ上で扱った点だ。GBTDの共有基盤はクアント(Quant)が構築し、複数金融機関の預金を相互運用できるよう設計されている。

ただし、英国の銀行預金全体がすでにこの基盤へ移行したわけではない。今回確認されたのは限定されたユースケースでの実取引であり、一般的な銀行間決済として全面稼働している段階ではない。

なぜ重要なのか?

銀行によるトークン化預金の実験自体は新しくない。これまでの課題は、それぞれの銀行が独自システムを構築すると、同じデジタル預金でも他行へそのまま移動できないことだった。

銀行Aのトークン化預金が銀行Aのネットワーク内でしか利用できなければ、既存の銀行システムと同じように銀行間で別の清算処理が必要になる。今回の実証では、複数銀行が共通インフラを利用し、預金の所属銀行が異なっても資金移動を成立させた。

この違いは、トークン化預金を実際の決済インフラへ発展させるうえで大きい。デジタルマネーの価値はトークンを発行できることではなく、取引相手が異なる銀行を使っていても同じ決済レールで資金を移せることにあるためだ。

市場構造への影響

今回の動きを市場構造として見ると、銀行預金の役割そのものが変わる可能性が見えてくる。現在の銀行預金は各銀行の内部台帳で管理され、他行への送金には決済・清算ネットワークを介する。一方、共有基盤上でトークン化預金を扱えれば、預金を銀行マネーのままプログラム可能な決済資産として利用できる。

これは「銀行対ステーブルコイン」という競争だけではない。銀行はすでに企業や個人から大量の預金を保有している。その預金自体をデジタル化して他行と相互運用できれば、新しい民間デジタル通貨へ資金を移さなくても、条件付き決済やデジタル資産の受け渡しに利用できる。

さらに共有インフラが重要になる。各銀行が独自トークンを発行するだけでは市場は分断されるが、複数行が同じ仕組みで交換できれば、銀行預金全体を一つのデジタル決済層として扱える余地が生まれる。

資金・規制・流動性との関係

トークン化預金の大きな特徴は、既存の商業銀行マネーとしての性質を維持することにある。ステーブルコインでは利用者が銀行預金から発行体のトークンへ資金を移すが、トークン化預金では銀行との預金関係を残したままデジタル形式で扱う。

銀行にとってこれは資金調達構造にも関係する。預金がステーブルコインへ大量に移れば、銀行側から資金が流出する可能性がある。一方、預金自体にプログラム可能性や高速決済機能を持たせられれば、顧客資金を銀行システム内に維持したまま新しいデジタル決済へ対応できる。

RWAとの接続も重要だ。債券やファンドなどがトークン化されても、決済に使う資金が従来システムの外にあれば処理は分断される。GBTDでは今後、デジタル資産取引の決済も実証対象とされており、2027年第1四半期にはデジタル債券を使った取引も計画されている。

トークン化された資産とトークン化預金を同じデジタル環境で交換できれば、資産の受け渡しと代金決済を連動させる仕組みを構築しやすくなる。ただし、実用化の規模やコスト削減効果、24時間運用の範囲などは今後の検証が必要になる。

初心者向け補足

トークン化預金とは、新しい暗号資産を発行する仕組みではなく、銀行に預けている預金をデジタルなトークン形式で表現し、プログラム可能にする考え方だ。

たとえば通常の銀行振込では、送金指示と商品の受け渡しは別々に処理される。トークン化預金なら、「商品が届いたら自動的に支払う」「不動産取引が完了したら資金を解放する」といった条件を決済そのものへ組み込める。

ステーブルコインとの違いは、誰の負債なのかにある。一般的なステーブルコインは発行会社に対する請求権などを基礎とする一方、トークン化預金は銀行に対する預金として扱われる。中央銀行デジタル通貨とも異なり、中央銀行ではなく民間銀行のマネーだ。

今回の英国実証が重要なのは、そのトークン化預金を一つの銀行内だけで使うのではなく、異なる銀行間で移動させた点にある。

Web3Timesの視点

今回を「英国銀行がステーブルコイン対抗策を始めた」と読むだけでは、変化を十分に捉えられない。より重要なのは、銀行預金という既存金融最大級のマネーを、複数金融機関が共有できるデジタル決済レールへ載せようとしていることだ。

RWA市場ではこれまで、国債、債券、ファンド、不動産など資産側のトークン化が先行してきた。しかし取引を完結するには、その反対側にデジタル化された決済資産が必要になる。ステーブルコイン、中央銀行マネー、トークン化預金のどれがその役割を担うかは、今後の金融インフラを左右する。

英国の実証が一段進んだのは、銀行ごとのデジタル預金ではなく相互運用性を示したことにある。預金を発行した銀行が違っても共通基盤で移転できれば、銀行間決済、法人資金管理、デジタル証券決済を同じ仕組みへ接続する余地が広がる。

今後見るべきなのは、トークン化預金がステーブルコインに勝つかどうかではない。銀行預金、ステーブルコイン、中央銀行マネーがそれぞれどの用途を担い、トークン化された証券やRWAとどのように接続されるかだ。

複数銀行をまたいだ預金移転が本格運用へ進めば、オンチェーン金融は銀行システムの外側だけに作られるものではなくなる。既存の預金そのものがデジタルマネーへ変わり、銀行ネットワークの内部からRWA市場へ接続する経路が形成される可能性がある。

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