Last Updated on 2026年8月18日 by oba3
米財務省は2026年8月17日、GENIUS Actの施行に向け、米国内での決済用ステーブルコインの発行、提供、販売を具体化する規則案を公表した。焦点は、誰が「米国でステーブルコインを発行した」とみなされ、どの事業者が連邦または州のライセンスを必要とするのか、さらに海外発行のステーブルコインをどの条件で米国利用者へ提供できるのかという実務上の境界だ。GENIUS Actは2025年7月に成立したが、法律があるだけでは企業は事業設計を完了できない。今回の規則案によって、米国のステーブルコイン制度は法律の成立段階から、発行者や取引サービスが実際に従う運用ルールを定める段階へ進んだ。
何が起きたのか?
米財務省(U.S. Department of the Treasury)は8月17日、GENIUS Act第3条を実施するための規則案を提示し、60日間のパブリックコメントを募集すると発表した。
GENIUS Actでは、2027年1月18日から原則として、適切な連邦または州のライセンスを取得していない事業者が米国内で決済用ステーブルコインを発行することを認めない。今回の規則案は、何をもって「米国で発行する」と判断するかを定義し、どの発行者がGENIUS Act上の認可を必要とするのかを具体化する。
さらに海外で発行されたステーブルコインについても、米国のデジタル資産サービス事業者が提供できる条件を整理する。海外発行者には、米当局からの適法な命令へ技術的に対応できることや、米国と本国当局との相互的な監督枠組みに従うことなどが求められる。
また2028年7月18日以降は、デジタル資産サービス事業者が米国内の利用者へ提供・販売できるステーブルコインについて、原則として認可された発行者によるものに限定する制度が予定されている。今回の規則案は、その市場アクセス条件を実務へ落とし込む重要な部分となる。
なぜ重要なのか?
GENIUS Actが成立した時点で、米国が決済用ステーブルコインへ連邦レベルの制度を導入する方向は決まった。しかし企業にとって重要なのは、法律の理念より、自社の事業がどの条件で規制対象になるかだ。
例えば米国外で法人を設立し、海外からステーブルコインを発行していても、米国利用者へ継続的に提供する場合にどの時点で米国規制へ入るのかは事業戦略を大きく左右する。発行拠点、販売経路、顧客所在地によって必要なライセンスが変われば、企業は商品設計や法人構造そのものを見直す必要がある。
そのため今回の規則案は、新しい義務を一つ追加したというより、米国ステーブルコイン市場へ入るための境界線を引く作業と見る方が近い。
市場構造への影響
米国でステーブルコイン市場が拡大する場合、競争力は発行技術だけでは決まらない。誰でもトークンを発行できる技術環境が残る一方、米国の決済市場や取引所、銀行、ウォレットへ広く流通させるには認可された発行者として制度へ接続する必要性が高まる。
ここで重要になるのが発行者と流通事業者の役割分担だ。発行体がGENIUS Actのライセンスを取得していても、利用者へ届ける取引所やウォレットが対象外のステーブルコインを扱えなければ流通は広がらない。逆にサービス事業者側も、どのステーブルコインなら米国内で提供できるのかを判断する必要がある。
この構造では、ステーブルコイン市場の競争は発行残高だけでなく、認可、銀行接続、取引所上場、決済網への採用まで含む流通競争になる。米国市場へのアクセス権そのものが発行体の価値を左右する可能性がある。
資金・規制・流動性との関係
GENIUS Actはステーブルコインを単なる暗号資産商品ではなく、決済インフラとして扱う制度だ。そのため発行者には準備資産、償還、マネーロンダリング対策、制裁対応など複数の規制が重なる。
これまで財務省、通貨監督庁(OCC)、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)などは、州規制との関係、準備資産、本人確認、AMLなどについて個別の規則案を進めてきた。今回の第3条に関する規則案は、その中でも「誰が米国で発行したとみなされるか」と「何を米国利用者へ提供できるか」という市場入口を定める役割を持つ。
この入口が明確になれば、銀行や決済企業、取引所は提携対象となる発行者を選びやすくなる。一方、認可取得や海外発行体への条件が厳しくなれば、米国市場で流通できるステーブルコインが一部の大規模発行者へ集まりやすくなる可能性もある。
ただし今回の文書は最終規則ではない。60日間の意見募集を経て内容が修正される可能性があり、現時点では確定した運用条件として扱うべきではない。
初心者向け補足
GENIUS Actは、米ドルなど一定の価値に連動する決済用ステーブルコインについて、米国で発行・流通させるための基本ルールを定めた法律だ。
法律が成立しても、企業が実際に従うためには「米国で発行したとはどの状態か」「海外発行ならどの条件で販売できるか」といった細かな定義が必要になる。こうした詳細を行政機関が規則として決める作業が今回の段階だ。
そのため規則案が出たことは、制度が完成したことを意味しない。まず案を公表し、企業や専門家から意見を集め、その後に最終規則へ進む。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、GENIUS Actという法律が成立したという過去のニュースではない。重要なのは、ステーブルコイン制度が企業の実務へ降りてきたことだ。
法案段階では、準備資産や発行者資格といった大枠が注目される。しかし市場を本当に変えるのは、どの法人が米国発行者になるのか、海外発行体を誰が販売できるのか、取引所やウォレットがどの商品を扱えるのかという運用条件だ。
ここが固まれば、発行者は規制対応を事業コストとして見るだけではなく、米国の銀行、取引所、決済サービスへ接続するための市場アクセス条件として捉えるようになる。逆に制度外に残るステーブルコインは、技術的には利用できても、米国の大手流通網へ入りにくくなる可能性がある。
今後注目すべきなのは最終規則の文言だけではない。2027年1月18日の主要な施行時点までに、どの発行者がライセンス取得へ進むのか、海外発行体が米国向け体制をどう整えるのか、そして取引所や銀行がどのステーブルコインを標準的な決済資産として選ぶのかが重要になる。米国のステーブルコイン政策は、法律を作る段階から、誰が市場へ入り、誰が流通網へ接続できるかを決める実装段階へ移っている。
