Last Updated on 2026年8月19日 by oba3
セキュリタイズ(Securitize)とニューバーガー・バーマン(Neuberger Berman)が、トークン化固定利付ファンド「Neuberger Securitize High Income Tokenized Fund(HINC)」を立ち上げた。HINCは主にハイイールド債へ投資し、CLOやレバレッジドローンなども組み合わせるアクティブ運用型の債券ファンドで、アバランチ(Avalanche)、イーサリアム(Ethereum)、ソラナ(Solana)、スイ(Sui)の4つの公開ブロックチェーンから適格投資家がアクセスできる。これまでトークン化ファンド市場は短期米国債やマネーマーケット商品が中心だったが、今回のHINCは信用リスクを取って運用する伝統的な債券戦略までオンチェーン化する動きだ。RWA市場は、低リスク資産をデジタル化する段階から、運用会社の投資判断そのものをトークン化ファンドとして流通させる段階へ広がっている。
何が起きたのか?
セキュリタイズは2026年8月18日、ニューバーガーと共同でHINCを立ち上げた。ニューバーガーにとって、トークン化ファンドのサブアドバイザーを務める初の案件となる。
HINCは単純な債券指数への連動商品ではない。ポートフォリオの中心はハイイールド社債で、加えてCLOやレバレッジドローンなど収益性の高い固定利付資産にも投資する。ニューバーガーはポートフォリオ運用とリサーチを担当し、同社の固定利付部門は2300億ドル超の資産を運用している。
セキュリタイズ側では、セキュリタイズ・キャピタルが投資顧問を務め、関連会社がファンド持分の販売、トークン化、管理業務を担う。投資対象が公開ブロックチェーン上に表示されるからといって誰でも自由に購入できるわけではなく、対象は適格投資家や一定要件を満たす購入者に限定され、本人確認やマネーロンダリング対策の審査が必要になる。
HINCはアバランチ、イーサリアム、ソラナ、スイの4チェーンで提供される。つまり同一の運用戦略を特定チェーンだけに閉じ込めず、複数の公開ネットワーク上でアクセス可能にする設計だ。
なぜ重要なのか?
これまでのRWA市場では、短期米国債やマネーマーケットファンドがトークン化の中心だった。価格変動が比較的小さく、満期が短く、価値評価もしやすいため、オンチェーン化との相性が良かったからだ。
HINCはそこから一段複雑になる。ハイイールド債は投資適格債より信用リスクが高く、CLOやレバレッジドローンも企業信用や市場環境を継続的に分析する必要がある。資産をブロックチェーンへ載せるだけでは価値が決まらず、運用会社の銘柄選択、信用分析、リスク管理が収益へ影響する。
つまり今回オンチェーン化されたのは債券そのものだけではない。ニューバーガーが長年構築してきた固定利付の運用能力を、トークン化されたファンド持分を通じて提供する仕組みだ。
この違いはRWA市場を見るうえで大きい。国債トークン化では主に原資産の利回りを届けることが中心だったが、アクティブ債券ファンドでは運用会社の判断とリサーチ能力まで商品価値に含まれる。
市場構造への影響
トークン化ファンドの種類が増えると、オンチェーン市場の資産配分も変わる可能性がある。これまで投資家がドル建て利回りを求める場合、トークン化国債やマネーマーケット商品が主要な選択肢だった。HINCのような商品が増えれば、国債より高い信用リスクを取る債券戦略もオンチェーン上で選択できるようになる。
これはRWAを単なるデジタル化された証券の集合ではなく、資産配分市場へ変えていく。現金相当資産、国債、社債、プライベートクレジットなど異なるリスク特性の商品を同じブロックチェーン環境で管理できれば、投資家はオンチェーン上でポートフォリオを組み立てやすくなる。
また4チェーン対応には流通戦略としての意味もある。特定のネットワークに利用者を集めるのではなく、投資家や金融サービスがすでに利用しているチェーンへファンドを持ち込める。RWA発行体にとっては、どのチェーンを選ぶかだけでなく、同じ金融商品を複数チェーンで一貫して管理できるかが競争力になる。
一方、複数チェーン化によって自動的に二次流通が厚くなるわけではない。規制されたファンドでは移転先の投資家資格や本人確認を維持する必要があり、パーミッションレスな暗号資産と同じ自由な流通性を期待することはできない。
資金・規制・流動性との関係
高利回り債券戦略をオンチェーンへ持ち込むと、利回りだけでなく信用リスクも一緒に移る。ハイイールド債は企業の財務状況が悪化すれば価格が下落し、デフォルトの可能性もある。CLOやレバレッジドローンについても、景気や信用環境によって評価が変わる。
そのためHINCは、トークン化国債のような現金管理商品とは役割が異なる。オンチェーンで利用できるという技術上の共通点があっても、資産のリスクや流動性、価格形成は原資産の債券市場に依存する。
規制面では、公開チェーンで発行されても投資家アクセスは制限される。セキュリタイズの本人確認やコンプライアンス基盤を通じて、適格性を確認された投資家だけが参加できる。この構造によって公開ブロックチェーンの決済・記録機能と、規制証券に必要な投資家管理を組み合わせている。
さらにHINCについては、アーベ(Aave)の機関向け市場Horizonで供給専用の担保資産として導入する提案も出ている。現時点ではガバナンス提案段階であり利用開始が確定したわけではないが、実現すればトークン化債券ファンドが単に保有されるだけでなく、USDCなどを借りる際の担保として利用される経路も生まれる。
初心者向け補足
ハイイールド債とは、信用格付けが比較的低い企業などが発行する債券で、投資適格債より高い金利を提供する代わりに信用リスクも高くなる傾向がある。
CLOは、多数の企業向けローンをまとめて証券化した商品だ。レバレッジドローンは、一般に負債比率が高い企業などへ提供される融資を指す。どちらも米国債とは異なり、企業の信用状態が価値へ大きく影響する。
トークン化ファンドでは、こうした資産を直接ブロックチェーン上へ一つずつ移すとは限らない。ファンドの持分をトークンとして表現し、投資家がそのトークンを通じてファンドの運用成果へアクセスする仕組みが使われる。
そのためHINCの価値は、ブロックチェーンそのものから利回りが生まれるのではない。ニューバーガーが運用する債券ポートフォリオの収益とリスクが、トークン化されたファンド持分へ反映される。
Web3Timesの視点
Web3Timesが今回見るのは、新しいRWAトークンが4チェーンへ追加されたというニュースではない。注目すべきなのは、オンチェーン化される金融商品の中身が短期国債からアクティブな信用運用へ広がったことだ。
国債トークン化では、原資産の安全性や利回りをブロックチェーン上で利用できることが主な価値だった。HINCではそれに加えて、企業信用を分析し、どの債券やローンへ資金を配分するかという運用会社の判断が商品へ組み込まれる。
この動きが広がれば、RWA市場の競争相手は単なるトークン発行会社ではなくなる。ブラックロックやニューバーガーのような既存運用会社が持つ投資戦略、セキュリタイズのようなトークン化基盤、公開チェーン、さらにDeFiの貸借市場が一つの流通経路で接続される可能性がある。
今後注目されるのはHINCの発行残高だけではない。適格投資家が実際にどのチェーンからアクセスするのか、トークン化された高利回り債券ファンドが担保や資金調達へ利用されるのか、そして他の大手運用会社が投資適格債、地方債、証券化商品など別の固定利付戦略をオンチェーンへ持ち込むのかが焦点になる。RWA市場は国債をデジタル化する初期段階から、伝統金融の運用戦略そのものを公開チェーン上へ配布する市場へ広がり始めている。