NYSEがAvalanche技術を約1年間検証しトークン化証券基盤への統合を検討、既存取引所が取引・決済・保管をオンチェーンへ接続する市場設計が進展

Last Updated on 2026年9月19日 by oba3

ニューヨーク証券取引所(New York Stock Exchange・NYSE)が、トークン化証券の市場基盤を開発する過程で、アバランチ(Avalanche)の技術を約1年間検証してきたことが明らかになった。アバ・ラボ(Ava Labs)のチャーリー・クーパー(Charley Cooper)社長が9月18日、ニューヨークで開かれたAvalanche Summitで説明した。重要なのはNYSEがアバランチ採用を正式決定したことではない。NYSEの親会社インターコンチネンタル取引所(Intercontinental Exchange・ICE)は、複数チェーンを利用できるトークン化証券基盤を開発しており、アバランチはその候補技術として検証されている段階だ。今回を見るべきなのはチェーン間の採用競争ではなく、既存の証券取引所がブロックチェーンを取引、決済、保管のどこへ組み込もうとしているかである。

目次

何が起きたのか?

クーパー氏によると、NYSEとICEはおよそ1年にわたりアバランチ技術を試験し、既存システムへどのように統合できるかをアバ・ラボと検討してきた。検証は単純な処理速度だけではなく、ネットワークの経済性や、大規模証券市場の運営要件に対応できるかまで含んでいたという。

ただし、NYSEがトークン化証券基盤のブロックチェーンとしてアバランチを正式採用したとは発表されていない。クーパー氏自身も最終的なネットワーク選定については明言しておらず、ICEの公式計画も複数チェーンを決済・カストディに利用できる設計を前提としている。

NYSEは2026年1月、米国上場株やETFを24時間365日取引できる新しいデジタル取引基盤の開発を発表した。計画ではNYSEの既存マッチングエンジンPillarとブロックチェーン上のポストトレード処理を接続し、ステーブルコインによる資金供給や即時決済、ドル金額単位での注文などを実現する。

対象には既存株式と交換可能なトークン化証券だけでなく、最初からブロックチェーン上で発行されるデジタル証券も想定されている。正式稼働には規制上の承認が必要であり、現時点では開発・検証段階にある。

なぜ重要なのか?

大手証券取引所がブロックチェーンを試すこと自体は珍しくなくなった。しかしNYSEの計画では、単に株式のデジタル版を発行するだけでなく、取引後の決済までオンチェーンへ接続しようとしている点が重要になる。

現在の米国株市場では、売買注文の照合、証券の保管、名義管理、清算、資金決済が複数の機関とシステムへ分かれている。ブロックチェーンを使えば、これらの一部を共通のデジタル記録へ接続し、証券と資金をより短い時間で交換できる余地が生まれる。

そのためNYSEが評価しているのは、アバランチという暗号資産ネットワークの人気ではない。大量の金融取引を処理しながら、アクセス管理、コンプライアンス、障害対応、カストディなど既存証券市場の要件を満たせるかという市場インフラとしての適合性だ。

市場構造への影響

NYSEの公式構想では、既存のPillarを取引エンジンとして残しながら、決済と保管にブロックチェーン技術を組み込む。つまり現在の証券市場を丸ごとDeFiへ置き換えるのではなく、既存取引所の中核機能とオンチェーン処理を組み合わせるハイブリッド型の設計になる。

この構造が実現すれば、トークン化証券市場の競争軸も変わる。どのブロックチェーンで株式を発行できるかだけでなく、既存の注文板、証券保管、名義記録、企業行動、決済資金を一つの市場として接続できるかが重要になる。

NYSEは3月にはセキュリタイズ(Securitize)と協力し、デジタル移転代理人の制度設計にも着手した。トークン化された株式でも正式な所有記録、配当、議決権、企業行動を既存証券と同じ水準で扱うためだ。これはブロックチェーン選定だけでは市場を作れないことを示している。

資金・規制・流動性との関係

ICEの計画では、トークン化証券をステーブルコインなどのトークン化資金と交換し、取引後すぐに決済する構造が想定されている。実現すれば、証券を売却してから現金を受け取るまでの時間を短縮し、営業時間外にも資金と証券を動かせる可能性がある。

一方、即時決済は常に既存制度より優れているとは限らない。現在の証券市場ではネッティングによって多数の取引を相殺し、最終的に必要な資金量を圧縮している。オンチェーン化では速度だけでなく、どの程度の資金を事前に用意する必要があるか、担保や清算の効率をどう維持するかも重要になる。

規制面でも、NYSEはトークン化証券を既存株式から切り離すのではなく、同じ株主権や投資家保護を維持する方向を示している。したがって採用するブロックチェーンには、取引速度だけでなく監査可能性、アクセス管理、既存市場との相互運用性が求められる。

初心者向け補足

今回のニュースは、NYSEがアバランチ上へそのまま移転するという意味ではない。現在のNYSEの注文処理システムを残しながら、その後ろにある決済や証券管理の一部へブロックチェーンを使えるか検証している。

また「約1年間テストした」という情報はアバ・ラボ側の幹部が明らかにしたもので、NYSEはアバランチを最終採用したとは発表していない。ICEの公式設計では複数のブロックチェーンを利用できる構造が示されているため、現段階では候補技術の一つとして見るのが適切だ。

トークン化証券も、株価へ連動するだけの暗号資産とは異なる。NYSEが計画する仕組みでは、既存株式と交換可能で、配当や議決権などの権利を維持する証券をオンチェーンで扱うことが想定されている。

Web3Timesの視点

今回をアバランチがNYSEを獲得したというチェーン競争として読むのは早い。より重要なのは、世界最大級の証券取引所が約1年をかけて、ブロックチェーンを既存市場のどこへ組み込めるか検証していることだ。

NYSEは取引エンジンをPillarに残しながら、決済、保管、移転代理人、ステーブルコイン資金をオンチェーンへ接続する構想を進めている。つまり証券市場のフロント部分を暗号資産取引所へ置き換えるのではなく、既存インフラの内部へブロックチェーンを埋め込む方向に近い。

今後確認すべきなのは、最終的にどのチェーンが選ばれるかだけではない。どの機能を複数チェーンへ分散するのか、24時間取引と即時決済を既存の清算・担保管理とどう両立させるのか、そしてトークン化された証券と従来株式を同じ流動性プールで扱えるのかが重要になる。

トークン化証券市場が本格化した場合、競争の中心は新しいチェーンを作ることではなく、既存の取引所、清算、保管、株主権をどれだけ滑らかにオンチェーン技術へ接続できるかへ移る。NYSEによるアバランチの長期検証は、その統合を研究段階から実際の市場基盤設計へ進めていることを示す材料になっている。

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